今年引退する「東京クヮルテット」のチケット売切れ続出

「終わりなき音楽家の道」
東京クヮルテット創設25周年を記念して、1994年に カーネギーホールやリンカーンセンター、ミラノのスカラ座でベートーべン弦楽四重奏曲の全曲演奏会をした。
スカラ座では、その年に亡くなった母に捧げるつもりで弾いていた。 演奏後は、拍手がやまなかった。アンコール曲は、ベートーベン自身も感涙したという『カヴァティーナ』。演奏の最後には、その余韻が永遠に続くかのように鳴り響いた。
ikedasan「音楽とは、言葉で表現できないものすごい力を持っている。受け取り方によっては、その人の人生が変わってしまうかもしれないという大きなもの」という思いを、会場にいる人々に伝えた 瞬間だった。

音が消えた後、演奏者も観客もしばらくは感動で微動だにできなかった。最高の演奏ができたという思いとは裏腹に、池田は自分の涙がバイオリンの上にこぼれないよう苦労していた。

「いまだかつて本番中に涙を流したことがなかったので、とても恥ずかしかったです」
拍手喝采を浴びながらステージを後にした。メンバーの顔を見ると、皆泣いていた。

小学校1年生のころ、若い担任教師が手を焼き、クラスを変えさせられるくらいの悪ガキだった。見かねた親が、音楽でもやらせれば落ち着くかと、しつけの一環にバイオリンを習わせることにした。バイオリンの先生はとても優しく、練習しなくても先に進めてくれる。
ところが母親はあるときバイオリンを隠した。

「母はユニークな人で、バイオリンを隠すことによって、練習しないのならレッスンを受ける意味がないというメッセージを送ってくれたんです」
それからは練習を自ら進んでやった。高校時代にはコンクールで優勝し頭角を現す。しかし一方で、東大合格者数トップを誇る高校だったため、進学かバイオリンかの選択を迫られた。

「自分はバイオリンをやめられるのか?ってハタと思って、やはりやめられないと、音楽の道へ進むことを決めました」
室内楽との出会いは大学1年のとき、チェリストの堀了介(現東京音楽大学教授)から誘いを受けたときだった。東京クァルテットのメンバーに加わったのは27歳のとき。同じ志を持った4人を揃えることがいかに難しいかを知っていたので、誘われたときは二つ返事で引き受けた。そして何事もなく日本人ばかりで演奏活動を続けていた。

ある年のこと、この東京クァルテットが大きな変革を遂げた。カナダ生まれイギリス育ちのピーター・ウンジャンが加わったのだ。英語で会話しなければならない上に、人間関係もガラリと変わった。

日本人同士は目上の人を敬い、相手に気を配り、少しぐらいの違いはお互いがあわせて演奏するという暗黙の了解があった。ところがウンジャンが入ってからというもの、年齢に関係なくメンバーは同じ目線で、少しでも違えば、お互いが納得するまで意見をぶつけあった。

「4人がそれぞれ違っててもいいのだということに気付いたのは、すごい発見でした。37年間同じグループで演奏を続けている今も、それぞれが違っていることに笑ってしまうくらいです」
やがて新メンバーでの演奏も波にのってきた。

「メンバーがそれぞれの個性を大切にして、自由に演奏できるようになり、それぞれのよさも演奏に出てきました」

東京クァルテット創設メンバーであるビオラ奏者・磯村和英と共に、2013年6月に引退することを発表した。それから先はソロ活動を続けるとともに、新しいチャレンジとして即興演奏をやりたいという。加えて、これまで自身が学んできたことを後進 たちに伝えていく。

「音楽家というのは、どの道にも終わりがないのです」<取材・執筆 弘恵ベイリー>

【プロフィール】

東京クヮルテット 第2バイオリニスト
池田 菊衛(いけだ きくえい)
1947年横須賀生まれ。桐朋学園大学で鷲見三郎、ジョセフ・ジンゴールドにバイオリンを師事、室内楽を斎藤秀雄に師事。読売日本交響楽団、東京都交響楽団、東京交響楽団とソリストとして共演。桐朋ストリング・オーケストラのコンサートマスターとしてヨーロッパ公演に参加。71年来米。ジュリアード音楽院でドロシー・ディレイとジュリアード弦楽四重奏団に師事。日本音楽コンクール、ワシントン弦楽器コンクール、ヴィエンナ ・ダ・モッタ・コンクールで入賞し、イタリア、ニューヨーク、東京でリサイタルを行い数多くのアンサンブルと室内楽を演奏。74年東京クヮルテットに参加。www.tokyoquartet.com

※引退直前だからか、コンサートチケットは、ほぼ売り切れ寸前だそうですが、ぜひチェックしてみてください!
以下のオフィシャルサイトからそれぞれのチケット購入サイトへリンクしています。

【関連サイト】
東京クァルテットオフィシャルサイト(英語)

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