Beasts of the Southern Wild (2012) Dir. Benh Zeitlin

全編にみなぎる活力!なのに、たがが人の暮らしなんて自然の一部なんじゃないか、と諭すような包容力。オープニングから、ずっと涙目でスクリーンに見入ってしまっていた。まさかそこがアメリカだなんてすぐには想像できない。荒れ地の中の朽ちた家。茶色く濁り氾濫した川。捨て子のような子供達。大人達は汗と泥とアルコールにまみれている。ミシシッピーの端っこのデルタ地帯「バスタブ」と呼ばれているスラムが舞台である。そこの人々が奏でる音楽、笑い、煌めく花火!光!!!で映画は幕を開ける。厳しい生活の滲み出た人々の顔、顔、顔。でも誰も貧困を嘆いたりしていない。なんだこの生命力は!ハッシュパピーという6歳の少女が主人公だ。獣のように髪の毛がおっ立っている。可愛い、なんて存在を越えた風格がある。父のウィンクは酒浸りで謎の病気で死にかけている。

教育にも色々あって、普通ならある親は子に対し、ごはんを食べる時に箸の持ち方を注意したり、米粒一つ残すな、食器を片せ、だとか、食事だけでも 色々教えはある。この映画では、父は6歳の娘に魚の捕まえ方を教える。濁った川底に手を突っ込み、魚を鷲掴みにし取り上げ「拳でなぐって気絶させろ!」と 命令する。川蟹を食べる時はナイフを使わせない。「男なら手で引き裂け!」娘ハッシュパピーは、もちろん女の子なんだけれど「あたしは、つおい男やで!」 と、蟹を素手で引き裂き、テーブルに飛び乗って「うおおおお!」と絶叫。とにかくやたら叫ぶ。父もよく叫ぶ。酔っぱらいの友人たちはげらげら笑う。ここは ほんまにアメリカか。まともじゃない。

でも、この妙な教育法はサバイバル訓練という勇ましいものでなく、そうやってしか生きられない哀しさにも満ちている。父はそんな風にしか教えられない、娘はそんな父しか頼れない。でも、そこにはやはり愛情があるから、人間臭くてセンチメンタルになったりもする。

一方自然は厳しい。人は立ち向かうことをやめ、あきらめ、日々をどうにか過ごして行く。ハッシュパピーは、そういった暮らしを理解しつつも、自然に 立ち向かっていこうとする。センチメンタルな感情と厳しい自然の中でもがきながら、ハッシュパピーは逞しくなり、不屈の精神を培って行く。彼女の絶叫は 「あきらめないんだ!」という意思表示。不屈の精神そのものだ。

カンヌで昨年「ツリー・オブ・ライフ」一昨年「ブンミおじさんの森」パルムドール(最優秀賞)を獲った2作は、日常生活と大きな自然(または宇宙) を対比 、交差させるという共通点があった。前者は宗教的だし、後者はアミニズムといった方向はあれど、生命の不思議を詩的に問いかけるような作品だった。

「Beasts of the Southern Wild」もカンヌのカメラ・ドール(新人賞)を獲った。こちらも日常から大きな自然へのつながりを描くという系列に入るように思えた。ただ、この映画が 私にとって、その2作品よりも感動的なのは、「バスタブ」の日常は、生活そのものがあって、そこには宗教やアムニズムといった人間が考えた後付けの理由な んかないことだ。「バスタブ」には、そうやってしか生きられない人たちがいる。それは、自然そのものだ。彼らの小さな日常だって、すでに計り知れない自然 の一部。洪水も、ダメな父も、アル中の住民も、蠢く虫も、全部自然の一部だ。理由なんてない。
そして「バスタブ」の中のただ一人、不屈の精神を持つ女の子、ハッシュパピーだけが、ふと耳を澄ませたとき、遠く遠くの氷河期からの歴史が、大 きな大きな世界の広がりが、一瞬見えて来る。逞しく生き抜くものだけの特権なのかもしれない。彼女にはそれが感じることができる。観客の私たちも、彼女の 精神を通して、その世界を一緒に垣間みる。言葉にはならない、逞しい生命の連なり。胸が熱くなる。わあ、私も同じ世界に生きてきてるんだ。それが映画の中 でのことだとしても、やっぱり同じ世界なんだと思う。
私は、この聞いたことのなかったBenh Zeitlinという監督が、てっきり南部の人だと思っていたのだが、観終えて調べてみると、彼がニューヨークのクイーンズ出身でこれが長編デビュー作と 知り仰天してしまった。都会で育った82年生まれの若い監督が、この「バスタブ」の人々を想像し生命を与えたということに、また感動してしまった。映画は まだまだ深い。まだまだやれる。<砂田和美>
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