新たなる挑戦 3: Restaurant Yuu

真剣な表情でプレートを仕上げるシェフ達

55 Nassau Avenue。MaCarren 公園の前に立つ煉瓦作りのビルの前に立つ。ここに来るのはもう5回目。初めて訪れたのは今年3月、まだ工事中で建築材料と工具に埋もれた店内は殺伐としていた。あの頃はここがどのようなレストランになるのか想像もつかなかった。私はいつものように入り口の階段を登りドアに手をかけた。いつもと違い、なぜだか少し緊張する。最初の訪問から4ヶ月がたった今、私は初めて客として Restaurant Yuu に足を踏み入れる。

Restaurant Yuu は5月19日、Chef Yuu の誕生日にオープンした。なかなか都合がつかず、ようやく予約が取れた7月。ドアを開けるとソムリエの Akio Matsumoto が出迎えてくれた。グレーのスーツがビシッと決まっている。案内されたのは キッチンのよく見えるカウンター席。Restaurant Yuuはカウンター席のみで、どこに座っても広いキッチンの様子が伺えるようになっている。

”ブロードウェイみたいなものですから。食べ物はもちろんですけど、雰囲気やサービスも含めて最初から最後までお客様をエンターテインしないと。”

そんなChef Yuuの言葉が頭に浮かんだ。私は劇場の幕が上がるのを待つように、ワクワクしながら席についた。席には、”Welcome to Restaurant Yuu” と書かれたネームカードが置いてある。自分の名前が書かれているのを見て、それだけでちょっと特別な気分になる。キッチンにはまだシェフ達の姿はない。飲み物はせっかくなのでワインペアリングをすることにした。量があまり飲めない私にとってはハーフサイズでペアリングの提供があるのはとてもありがたい。この週からマンハッタンにある高級韓国料理店、Bōm でソムリエをしていた Alex Chung が Restaurant Yuu に新メンバーとして加わり、飲み物のサービスは彼が担当してくれた。

キャビアを丁寧に盛り付ける Chef Yuu

長いメニューには材料の名前が載っているが、料理についてのディスクリプションは無い。どんな料理が出て来るのだろうか。メニューには Chef Yuu 直筆のサインが入っている。小さな事だが、こういうジェスチャーからも細部に渡って気配りがされていることがよくわかる。そして、役者たちが舞台へ出てくるように、シェフ達がキッチンに次々に入って来た。いよいよ本番の始まりだ。

最初のサービスをしてくれたのは前回インタビューもさせてもらったサービスマネージャーの Henry Kim。彼のサービスはプロフェッショナルながらも温かみがあり、高級レストランながらアットホームで心地よい気分にさせてくれる。出されたのは真っ白なお皿だ。上には何も乗っていない。”マンハッタンの地図が描いてあって、光の加減でレストランの場所にロゴが見えるんです” お皿を手に取り違う角度から見てみると、グリーンポイントの辺りにうっすらとレストランのロゴが入っているのが見える。アーティスティックなローケーションにあった粋な演出だ。

レストランのロゴが見えるだろうか

アミューズで出てきたのは小さなマスのタルト、そしてタコの揚げ物、赤ピーマンのソース。それが川辺の岩を思わせるような二段式の白いプレートに乗せられている。最初のロゴ入りプレートに負けないくらい素敵なお皿だ。食事は先ず目で楽しむと言うが、まさにその通りで見るからに美しい。今回の訪問で出てきた品数はデザートを含めると約20品くらいだっただろうか。その一品一品に使われたお皿や器はどれも素晴らしいものばかりで、料理の美しさを引き立てていた。料理自体はフレンチであるものの、その器へのこだわり、そして盛り付けは日本の懐石を思わせるものだった。色々なレストランで食べてきたが、ここまで器にこだわるレストランはニューヨークでは初めてかもしれない。

きめ細やかな盛り付けをするPastry Chef Masaki

キッチンでは Chef Yuu、 Chef Shuji、そして Pastry Chef の Masaki 達が次々と料理を仕上げていく。彼らの料理に向ける眼差しは真剣そのもの。手を抜いているところなど一つも見受けられない。”全て完璧に仕上げたいー” そんな彼らの思いがひしひしと伝わってくるようであった。昔、ニューヨークで調理師学校に通っていた時にレストランで働かせてもらってことがある。レストランのキッチンは戦場だと聞いていたが、本当にその通りだなと思った。シェフ達が慌ただしくフライパンや鍋を動かしている様子が今でも頭に残っている。しかし、Resutanrant Yuu のキッチンは全くの別物だ。サービス中でもキッチンは常に驚くほど綺麗で、全ての作業が無駄のない動きでスムーズに流れて行く。もちろん、忙しさは他のレストランと変わらずシェフ達の動きが止まることは無いが、その忙しさは全く感じられない。これが一流レストランのキッチンなのかと彼らの働く姿に見入ってしまう。本当に舞台を見に来ているようだ。

芸術のような盛り付け
草原を思わせるようなビシソワーズ

コースの途中で焼く前の鴨のパイ包みを Chef Yuu が見せに回る。鴨のパイ包みは Chef Yuu の十八番。この時点ですでに期待が高まる。パイ生地担当は Pastry Chef の​​Masakiだ。パイのデザインはその日の天気や雰囲気によって変えているそうだ。この日は花と葉をモチーフにした可愛らしいデザインであった。このパイがどのように焼き上がるのかと他の客もみんな楽しそうに写真を取っている。Resutaurant Yuu のサービスにはこのような客を楽しませる気の利いた演出があちらこちらに散りばめられていた。品数の多いコースメニューの場合、料理を用意するのはもちろんだか、サービスにもそれだけ時間が掛かる。料理を淡々と出すのではなく、このようなサービスを入れることでリズムが変わり、またシェフと話せる機会も出来るので長いサービスでも客が飽きることがない。見事に焼き上がったパイも、もちろん見せてくれた。そしてパイに包丁が入る。フォアグラと鴨肉の綺麗な2層の断面を目にし、客達はワクワクした顔でまた携帯を手に取っている。

そして、切り分けられたパイが出された。添えられたソースと一緒に口へ運ぶ。完璧な火の通し具合の鴨肉と濃厚なフォアグラ、そして深いこくのあるソースの相性は抜群だ。パイ生地に包まれた鴨肉をどうやってあれだけ完璧に火が通せるのか不思議なくらいだ。そして、いつもながらソースの美味しさには感激である。パリの一流レストラン、Guy Savoy でソース作りを担当した経験のある Chef Yuu、彼のソース作りの腕には圧巻だ。この1品と合わせて出されたワインはクローズ・エルミタージュ。赤い果物の上品で凝縮されたフルーティーな感じが鴨にピッタリだ。

ワインペアリングでは10種類のワインが出された。その中には日本酒もあり、フランス料理だからワイン、という枠にとらわれない斬新さがある。出されるワイン自体はもちろん美味しいのだが、なにしろ食べ物とのマリアージュが最高であった。料理に合ったワインというのは、料理、そしてワインそのものを一層美味しく感じさせてくれる。もともとワイン好きではあるが、こんなペアリングを体験すると、もっとワインが好きになってしまう。バーカウンターでワインとチーズの提供を始めたと聞いたので、いつ行けるかなとすぐカレンダーに目を向けてしまった。

メインの鴨が終わり、いよいよデザートに入る。メインのネクタリンのスフレの前に、口直しのような感じで出された夕張メロンの軽いデザート。メロンソーダをイメージして作ったというのだが、一口食べて虜になってしまった。メロンの爽やかな甘さとジュージーな感じが口一杯に広がる。アメリカでこのような美味しい果物のデザートが食べられるなんて本当に贅沢だ。そして、こんなデザートを日本人には馴染み深いメロンソーダから生み出せる Pastry Chef Masaki には脱帽だ。

最後のコーヒーやお茶はカウンターテーブル後ろのソファーに移動してからミニャルディーズ(コーヒーなどに合わせて出される小菓子)と一緒に出される。ソファーでリラックスしながらコーヒーを飲んでいると、お腹がいっぱいなのにも関わらずついつい可愛らしいお菓子に手が出てしまう。

帰り際に、お土産としてパウンドケーキも頂き、キャスト全員に見送ってもらいながらこの公演の幕が降りた。最初から最後まで本当に楽しませてもらった。料理の感想を中心に書くつもりでいた今回の記事、お店に行ってみて、それでは勿体無いと思った。”料理が美味しいのは当たり前。それ以外のところでお客さんを喜ばせる” そう言っていた Chef Yuu。今回の訪問でそれを実際に体験し、こういうことか、と改めて彼の凄さを感じた。

目指すは三つ星。その日は必ず来る、そう私は信じている。

Restaurant Yuu
55 Nassau Ave 1A
Brooklyn, NY 11222
Tell: 347-422-0270
Restaurant Yuu Instagram: @Restaurant_Yuunyc

-e, Instagram: @e_villagestone

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