ウエストビレッジで公演中の黒人ばかりの芝居の舞台監督に田中史子さん

Negro Ensemble Company, Inc. (エクゼクティブ・プロデューサー:Karen Brown)によって開催されている一幕物(ひとまくもの)を3作品上演している舞台「Our Voices, Our Time」、プロデューサーや脚本家、デザイナーそして役者さんたちは、アフリカン・アメリカンのスタッフばかり。そんな中、たった一人アジア系で日本人である田中史子(たなかふみこ)さんが、プロダクション・ステージ・マネージャーとして活躍中なのだ。

まず何より、この舞台が気に入ったのは、ウエスト・ビレッジにあるCherry Lane Theater(チェリー・レーン・シアター)で、役者さんと観客の距離が近いこと。まるで自分が役の中に入ってるような気分になる。例えるなら、ダイニングルームで夫婦喧嘩してる両親の間に、子供である自分がいるくらいの距離感。

1作目 What If …..?(脚本:シンシア・ グレース・ ロビンソン)、まさしくBlack Lives Matter(反黒人差別の社会運動)のため娘が立ち上がろうとするのだけど、母親は仕事場でハラハラするばかり、心配でたまらないというお話。同じ舞台に母娘が立ってるけど、別の場所にいるという設定がユニークだった。主演女優がラップトップにむかって話しているシーンもあって、時代を感じた。

2作目 I Don’t Do That(脚本:モナ・R・ワシントン)、婚約したてのカップル、アフリカ系アメリカ人のノラとナイジェリア人のサイモン。生理中にアレは・・・っていう喧嘩から話が始まるのだけど。国際カップルだったら、たしかにコレってアルアルネタだなぁ〜って思った。

アメリカにいる女性は、世界の中でも女性は男性と対等であるべきって意識が強い。だからか、どんなシチュエーションでも対等じゃないと納得できないから、喧嘩になるのだって思う。

私もいつも夫と同じようなことで喧嘩をしているので、ジャマイカン・アメリカンの夫をつれてこなくてよかったと胸をなでおろした。アメリカで育っていたとしても、移民2世くらいだと、母国の慣習を引きずっていることが多い。

1作目の途中で、隣に座っていた黒人女性(ここから先は彼女をマムと称する)に、「今日はどういうきっかけでこの舞台を観に来たのですか?」と聞いてみた。すると、「3作目に、うちの息子が役者で出てるの」と一言。

マムは名前を指さして、「これが息子の名前よSteven Peacock Jacobyもう20年以上、役者としてのキャリアがあるの」と教えてくれた。

そうこうしているうちに、3作目  Clipper Cut Nation(脚本:クリス・エリ・ブラック)が始まった。男性専門のバーバー・ショップ(理髪店)が舞台。バーバー・ショップのコメディ映画から抜け出てきたみたいに、雇われてる若い男の子が、ホウキとダンスしてみるっていうコミカルなシーンから始まった。

メイヤーに立候補している黒人男性がやってきて、その後に入ってきたのは・・・?って思ってたら、隣に座っているマムが私の腕を、肘で軽くついてきた。このメイヤー候補者の後に入ってきたのが、マムの息子のスティーブンさんらしい。

メイヤーに訴える内容に関してはネタバレするので、明かさないが。とにかく迫真の演技すぎて、隣にいるマムはもちろん、思わず私までもらい泣きしてしまった。

自分も席を立って役者さんに向かって、「あなたがメイヤーになる資格あるんですか?」って問い詰めたくなる、もしくは、「あなたも、そこまで責めることはないでしょう?」って、喧嘩をとめたくなる。それくらい迫力があるのだ。

舞台や役者さんとの距離感って、これからの時代は、こういう感じで近くなっていくべきって思ってたので、これぞ私の理想とする舞台のあり方だった。

大きな舞台であれば、役者さんたちの声は必ずマイクを通しているわけで、マイクを通す以上は、音声さんの力量にも関わってくる。この舞台の様なマイク無しの役者さんたちの声は、彼ら自身が決めている声の質や大きさ。

舞台に関して、プロデューサーや出演者たちも、オンラインで観れないものを舞台で観せていければいいと語っていた。

人間のパワーやありのままの感情など、目の前に舞台があるからこそ観客も感じることができる。

映画などではストーリーを追って自分自身が感傷的になることはあるが、役者さんたちから発せられるリアルなシグナルは、舞台からしか得ることができないのではないかと実感した。

最後に、田中史子さんから一言いただきました。

創立55年の歴史あるThe Negro Ensemble Company, Incの舞台に初めて参加しています。プロダクション・ステージ・マネージャーは舞台の諸々の分野を監督する仕事で、大変ではありますが、やり甲斐があります。

カンパニー全員で目指していた舞台が出来上がった瞬間の達成感は格別で「舞台の仕事が好きだ」と改めて実感しました。とても質の良い舞台ですので多くの方に観て頂きたいと願っています。<取材・執筆 ベイリー弘恵>

<舞台の近さはこんな感じです>


<詳細>

Event website:

necinc.org

Address:

Cherry Lane Theatre

38 Commerce St

New York

10014

Cross street:

at Seventh Ave South

Transport:

Subway: 1 to Christopher St–Sheridan Sq

 

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください