『人生一度しかないのだから好きなように生きろ』という父の言葉を支えに、対人恐怖症をのりこえ、声優、心理カウンセラー、そして二児の母でもあり、さらには現在、数カ国に翻訳された絵本制作にも携わっている。
「ニューヨークは、人それぞれの生き方に対して何でもありで自由です。母親として子育ても自分らしくやれるし、ボイスアクティングで自分とは別のキャラクターを演じることも楽しんでます。演じるというのは、心理学ともつながっているのです」これまでやってきたことの全てが、今やっていることと、うまい具合にリンクしているのだという。
父の転勤で9歳までアメリカで育ったが日本へ帰ったという典型的な帰国子女だった。アメリカで自己主張をもつように教育されているためいつも明るくて、気の強いタイプ。中学生になるまでは周りにもなじんでいたのだが。中学生になり、多感な時期でもあるからか、ふとした事がきっかけで、「自分は人から嫌われているのでは?」と、周囲の目が気になるようになった。そこからは坂を転がるように対人恐怖症をわずらうこととなる。
「人に好かれたい、日本人らしくしたいと自分を殺していつもニコニコと笑顔をたやさないようにしていたからか、少しずつ本来の自分を見失っていきました。それが続くうち、いつの間にか対人恐怖症になっており、同い年の女の子に名前を聞かれただけで頭の中が真っ白になって答えられなかったり(笑)。状況はさらにエスカレート、電車に乗っているだけで心臓がバクバクとなり、呼吸ができなくなったりして、電車を降りれなくなったこともあります。それがきっかけで、カウンセリングに通いました」
カウンセラーの助けもあり徐々に対人恐怖症を克服していった。本来の自分を見つけていくうちに、人に対しても興味を抱くようになり、心理学にも興味をもち始める。
一方で小さい頃からブロードウェイのミュージカルの舞台に立つことに憧れていたからか、人に注目される仕事にも興味はあったのだろう、それはテレビの世界だった。
「ブラウン管は別世界と思ってはいたのですが、友人に教えてもらったCNNヘッドラインのオーディションを受けてみたのです。一度目は受からなかったのですが、300人以上受けた中で最終選考の5人に残ったことがきっかけで次の年も再度挑戦。厳格な父には反対されるだろうからオーディションのことは秘密にしていたのですが、なんと顔写真を新聞に掲載されて一般の人たちからの人気投票というのが最終選考だったのです。『人生一度しかないのだから好きなように生きろ』って幼いころから言ってくれていたのは父だと切り返したので、うまく父を説得することができました」
テレビ朝日のキャスターとしてCNNヘッドラインの仕事を1年間つとめた。
「おそらく大学時代の私を知っている友人は、大人しくて物静かな私がテレビの仕事をするなんてあり得ないって思ってたでしょうね。テレビに出ているときには、私はここにいるのだという自己主張ができて気持ちよかったです。それでも相変わらずプライベートでは人と話すのが苦手で、一人でいることが好きだったりして、テレビでもおしゃべり、特にアドリブが苦手ということもあって辞めました」
その後、本格的に心理学を学ぼうと、アメリカへ渡った。カウンセリングのマスターをとってアメリカの福祉団体や大学でカウンセラーとして働いていたが、結婚を機に日本に帰っているうちに米国労働省の予算削減にあい職を失った。
「インターネットで見つけたANAのCMのための一般公募オーディションを受けてみて、CMに出たのですが面白いって感じ、ブロードウェイに憧れていたころの自分がよみがえってきました。やっぱり好きなことをやりたいと思いたち、今度は演劇学校へ通い始めました。アメリカの演劇学校では、心理学の大切さを学びました。演技の本よりも心理学の本を読むようにすすめる先生がいるほどでした。楽しいときも、気まずいときも身体の動きには心理が作用しているのです。たとえば、ワインを飲む演技ひとつにしても表情や動作には、その人の心理が現れます」
自己主張や表現、そして個性を築いていくために演技力というのは役立つのだという。アメリカで演劇学校へ来るのは、俳優を目指している人ばかりでなく、企業のCEOや弁護士ほか、セールスやマネージメントのポジションであるビジネスマンなども多い。
「今はボイスアクティング(声優)が中心なのですが、ようやく自分らしさを演技によって出せるようになりました。夢はディズニーアニメの声優をやることです」人生一度しかないのだから好きなように生きる!様々な人生の経験を積んで、これからも好きなように生きる方向は、ますます拡がっていきそうだ。
<取材・執筆 ベイリー弘恵>

People: Lucy Liu, Seiko Suzuki Shih
Photo by CBS ENTERTAINMENT
【プロフィール】
幼少期をアメリカで過ごす。大学時代にテレビ朝日、CNNヘッドラインのキャスターに選ばれ、ブラウン管デビューを果たす。その後、衛星放送のリポーターなどを勤めるが、心理学を学ぶため一旦活動を休止し、渡米。心理学修士取得後、再び活動を開始する。アメリカのドラマ、CM、インディーフィルムなどに多数出演。現在、2児の育児に従事する傍ら、ナレーター、声優として活動中である。
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