ジャパン・ソサイティーで11回目を迎える映画祭ジャパン・カッツにオダギリジョーがゲストとしてNYの会場にやってきた。同映画祭から監督や俳優の功績をたたえるCUT ABOVE賞が、オダギリに贈られた。彼が主演の映画「オーバー・フェンス」山下敦弘(やましたのぶひろ)監督作品が上映された後、質疑応答が行われた。監督の姿は舞台になかったが、作品の撮影に関する質問も多くあがり、一つ一つをオダギリが’丁寧にこたえた。函館を舞台にした恋愛映画なのだが、日本の昭和時代を彷彿とさせるスローなテンポだったためか、アメリカ人からは「編集がよければ、もっといい作品になったのに」という意見もあった。
映画の後のレセプションで、私の好きなドラマ「深夜食堂」に出ているときの彼があまりにもナチュラルなので、「素でやっているのではないのか?」と本人に聞いてみた。ところが、「演じてます」と一言。「それならば、これまでの作品で自分に一番近い役はあったか?」と聞いてみたら、「全て演じてます」とのこと。さすが本物の役者さん。(ってか、やっぱり個人的にはリアルな彼も深夜食堂のキャラに近いって思ったんだけど。。。)とはいえ、オダギリ出演の作品は、彼自身のキャラクターが雰囲気づくりをしているものも多いと感じる。今回の作品も彼が演じているからこその、やるせない雰囲気が出ている。
オダギリは自己紹介のときに、自分が出る作品は選んでいて、そうさせてくれている事務所に感謝しているということを伝えていた。質疑応答では、楽しかった仕事と辛かった仕事を聞かれたが。仕事として役者をやっているので楽なことばかりではないと語った後、一番つらかったのは、韓国の戦争映画「マイウェイ」。とても過酷な撮影環境だったらしく、逃げ出したいと本気で思ったという。が、結局は逃げずにやり通す真面目さが、舞台挨拶の端々にもでていた。日本人ってこういう真面目な人に弱い。私もなんだかんだいってこういう真面目な人には弱いのだ。
会場には日本映画好きなアメリカ人もたくさん来ていた。長い間、日本の映画を見続けているという人たちが集まり、好きな監督は園子温(そのしおん)だという人もいたり。アメリカ映画よりも、日本映画やフランス映画を主に観ているという人もいた。どちらも内容が濃いものが多い。逆にアメリカ映画は、展開が見えてしまうのでつまらないのだとか。残念ながら今回の映画には両者ともに「ちょっとスローだったよね」という批評。もしかしたらそのスローなテンポこそ函館ののどかな雰囲気を引き立てるため、監督がねらって作ったのかもしれない。
ジャパンカッツで日本の映画を劇場で観れることはありがたい。加えて在NY日本人にとってありがたいことは、日本の有名な役者さんと2ショット撮影ができるチャンスの場なのである。これからも日本からゲストを招くことは続けてほしい。<敬称略 取材・撮影 ベイリー弘恵>