世界に名だたるNYのダンスカンパニーであるアルビン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアターは、アフリカン・アメリカンの文化を基礎としたモダンダンスを主として演じ、選りすぐられたダンサーが全世界から集まる。同ダンスカンパニーに所属し、悠冊は2010年から4年間、ヨーロッパ全土を公演でまわった。その後、ニューヨークへ戻りダンス・エージェンシーに所属したことで、2017年のクリスマスに公開されるヒュー・ジャックマン主演の映画、The Greatest Showmanにダンサーとして出演することとなった。「映画の中ではダンサーとして出ているのでセリフもありませんが、ふだんは舞台で踊ることがおおいので、カメラの前で踊ることは新鮮でした。フリーズ(止まって)って撮影の合間にいわれると、止めたところから撮りなおしをしたりするんです。」
台本読みのときには、出演するダンサーの中から悠冊だけが招かれたという。「ダンサーの中でも重要なキャストなので、コリオグラファーはいますが、そこに自分らしさを表現する何かを足さなければならないというプレッシャーはあります。自分らしさとは、まず群舞で踊る際には悪目立ちをしないようにしています。とはいえ、アジア人ということもあって小柄なので、体格の大きいダイナミックに踊るダンサーさんよりも、大きく踊って高く飛んで、誰よりも沢山回るという事は意識していました。さらに今では、なるだけユニークに、日本人の繊細な部分を大切にし、いい意味で人と違う踊りが出来るかということを考え踊っています」
舞台に映画そしてCMと、ダンスを演じる場として、さまざまなチャンスを広げている悠冊は、日本だけでなくアメリカでも有名なダンサー小森美紀の長男だ。
「母はアメリカへ留学中に、Star Search ‘89というアメリカのオーデイション番組に出て、グランドチャンピオンに選ばれたんです。それからは、アメリカでダンサーとして有名になったこともあり、BDC(ブロードウェイ・ダンス・センター)でダンスを教えていました。その翌年に僕が生まれたんです」自分がダンサーならば、無理にでもダンスをやらせるのが親の性という気もするが、母である美紀は悠冊に「ダンスをやってみれば」などと勧めることすらなかった。日本で育てられていたが、母と再び数週間ほどの短期滞在でNYへいく4歳くらいまでは、当人もダンスなんて男の子のやることではないと思っていたという。
「母は、僕がダンスをやる気になるまで待っていたのかもしれません。母とBDCへ遊びにきていた時、たまたまそこでマイケル・ジャクソンのビデオが流れていました。マイケル・ジャクソンのダンスを見てるうち、これをやるしかないって決めたんです」それからは、母にダンスを教えてもらうようになった。
日本でもダンスを続け高校を卒業してから、2010年に今度は一人でニューヨークへ渡った。「母の知り合いはいましたが、あまり頼らないように心がけてました」悠冊は今もダンスの仕事だけでなく、日系レストランでもアルバイトを続けている。偶然、彼の働いてるダウンタウンの店へ行き合わせたことがあるが、魚介類や野菜を器用にさばいたり、焼いたりする様も、まるでダンスのように軽やかである。料理というよりもパフォーマンスを観ているようであり、彼の焼いた魚や牡蠣は、焼き加減に気を配っているらしく格別にうまい。「シェフも今は好きでやっています。一見踊ることとはかけ離れているのですが、繊細さはダンスと同じ、少しの焼き加減で味が変わったりします。視覚ではなく味覚に関わる仕事につくことで、違った方向から繊細な踊りをやることに立っている気がします」
ダンスをはじめてから、母は尊敬できる存在となった。渡米後も母のコネがあったおかげで、目標としてきたマイケル・ジャクソンに関わった人や、マイケル・ジャクソンが生きていればツアーとなるはずだったThis is itのダンサーとも関わることができたという。加えてダンス・エージェンシーに入れたもの母のコネがあったからだとか。そこからは、映画やCMなど大きな仕事が入るようになった。「母は、マイケル・ジャクソンの姉ラトーヤ・ジャクソンのミュージックビデオに出演するなどしているので、自分がマイケル・ジャクソンに会ったわけではないのですが、他人とは思えないところもあります。一方的ではありますが、そんな事も自分にとって小さな心の支えになっていたりします。
母が有名なダンサーであることから、周りからはサラブレッドみたいにいわれるので、プレッシャーは感じます。これは、どんな親子にも共通することだと思いますが、母が若いうちに達成できなかった夢をたくされていること感じることもあります。しかし、自分で決めてついた仕事なので、プレッシャーを力にかえるつもりでいつも仕事には取り組んでいます」
今年のクリスマスには、世界的に大ヒットしそうな映画The Greatest Showmanで、悠冊のダンスを観ることが楽しみとなった。「映画やビデオなどダンスが映像となることによって、自分のダンスが生涯の記録としてのこることはいいと思います。それに映像ならば、観るがわも興味をもちやすいと思います。なかなかダンスの舞台を観にいかない人でも、映画ならば観に行きやすいですし、ダンスに親しみやすいと思うんです。もっともっとたくさんの人に自分のダンスを見てもらうことは、大切なことだと思っています」これから更に悠冊はダンサーとして磨きをかけ、世界的にもっともっと飛躍していくにちがいない。<敬称略 取材 ベイリー弘恵 取材協力 TMH DANCE, LLC Dance “Move”!!>
【プロフィール】
小森悠冊(こもりゆうさく)
2010から2年間、若手の精鋭軍ともいえるAileyllに所属、続く2年間はbad boys of danceに所属。その後NYへ戻ってからしばらく、フリーランスで振り付けやソロ活動を続けるうち、タップダンサーCartier Williamsと出会い二人でパフォーマンスをやるようになる。彼とのつながりで今年もヨーロッパツアーに行く予定だ。2016年よりMSA事務所に所属。