勇気をくれたり悲しみに寄り添ったりするだけではなく、油断するとすぐに流れ去っていく毎日の気持ちを写真のように保存し、
いつでも取り出せるようにしてくれるのが音楽。
『十人十色』『格好悪いふられかた』など多くのヒット曲を送り出し、渡辺美里や薬師丸ひろ子など数多くの歌手に作品を提供、
ジャズに本格的に挑戦するために滞在中のニューヨークで、今回日本を襲った東北関東大震災からの復興を支援する
チャリティコンサートにも精力的に参加している大江千里の活動をインタビューを通して紹介する。
3月24日(木)のJaNet主催の東北関東大震災・津波救済ベネフィットコンサート。
オルガン奏者の敦賀明子とのデュオで「星空に歩けば」「ムーンライトエピソード」などを演奏。
ハートフルで元気な演奏で訪れた人を暖かな気持ちにさせてくれた。
「ジャズは10代の頃からの憧れでした。途中で頓挫していたものの50代を前にしてやっぱりやりたいという気持ちが強くて、
いま挑戦しています。真剣にやらないとというのはもちろんありますが、やっぱり一番大事なのはハートだと実感しています。
なによりも心から演奏することだと思います」
そして3月27日(日)。収益の一部が日本大使館を通して被災地に送られるチャリティライブとして開催されたJ-Summitにも出場。
日本のサブカルチャーやJポップ、ダンスなどを通じて、日本とニューヨークを結ぶクロスカルチャーイベントとして
2009年から定期的に行われている。
J-Summitにはニューヨークで活躍中のジャズシンガーERIKAやAmerican Idolで日本人として初めてオーディションを通過した
YOJI”POP”Asanoも顔をそろえる。会場となったBowery Electricでは観客がステージを囲むように座って、
アットホームな暖かい雰囲気のなかで行われた。
大江千里はRudy Semah(Bass)とJoe Abrams(Dr)らを率いたトリオで参加。
終始体を動かして体全体でキーボードを弾く元気いっぱいな演奏で、松田聖子の「パールホワイト・イヴ」等を披露した。
その後ステージに現れたのは自身が参加する日米ミックスのクロスカルチャルバンド
「モーニング息子」メンバーのJonathan Powell(Tp)、John Beaty(Sax)、Joe Beaty(Tb)。
『格好悪いふられかた』がスタートすると、会場からひときわ大きな歓声がわきあがった。
ビッグバンド調にアレンジされた中で、ホーンセクションがそれぞれソロを披露したあと大江千里のピアノソロが弾けた。
トランペットやトロンボーン、キーボード、それぞれの音が解き放たれる瞬間には胸が高鳴った。
音を合わせることの気持ちよさは、仲間と海辺や山を一緒に駆け抜けるこの上ない爽快感に似ている。
10分近く続く演奏の間中、会場は暖かく元気な雰囲気に包まれていた。ずっと終わってほしくない、いつまでもその中にいたいような気持ちになる。
最後に演奏された『Hometown』。ニューヨークの自宅で母国・日本を思って作曲中、偶然にも地震の第一報を聞いたという。
「こういう偶然もあるんだなあと思いました。一小節一小節丁寧に作った曲です。
曲も長くないですしそんなに入り組んで難しく作った曲じゃないので、日本人もそうだし、できるだけたくさんの人に聴いてもらって、
心をつなげていきたいなと思っています」
大江千里の作品はいつも、言葉にできないもどかしさを代弁するだけではなく、転んでも失敗しても前を向いて歩いていく勇気をくれる。
それはいつも真摯でポジティブな彼自身のパーソナリティーから出ているのだろう。
そんな彼の音楽に触れて、コンサートに来た人たちは忘れていた大切なものを思い出し、
つらい過去に塞いでいた心をもう一度開く勇気をもらって、新しい明日にむかって歩いて行く。
(インタビュー:Yoshiko Sakamoto)