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第四十七号 05/14/2000
Harlem日記
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******裏の商売 その1*******
ブルックリン美術館付近に住んでいた頃、暇をもてあましてビデオを借りにいった。2ブロック角にあるMr. Brown 個人経営。ここはプラスティックの壁の向こうに窓口があって、直接、客と接触できない状態になっている。
ブルックリンの一部のデリはいまだに深夜になるとビニールバッグの商品が入る程度の小さな回転扉のみの販売になる。ハーレムも同様。<2022年の現在はもっと安全かつ普通のショップになっている>
ビデオがプラスティックのケースに入って縦に自分の身長より高い天井付近までディスプレイされていると特殊な収容所に入ってる気分になる。収容所に入ったことはないけど、収容所っていうのがこういうものなのかなー?という気分にさせられる。しかも窓口までプラスティックで仕切られていると、とことん圧迫感を覚える
(こういった空間が貧しい区域に入れば入るほど多く、チャイニーズフードの店だって鉄格子が張り巡らしてたりする。)
ブラウン氏経営のビデオ屋はブラックの馴染み客がたむろしていて、「Hey!Mr. Brown。となりのウィリアムズ死んだらしいぜ?」「あー、今日、葬儀に行ってきたよ。」などと会話がはずむ。葬儀の会話だって彼らはブルーにならない。
ここでビデオを初めて借りたときに、Mr. Brownは隣のC-Townスーパーの袋にビデオを入れてくれた。住所も聞かず会員証もなしで借りていいの?と疑問に思った私。「住所聞かなくていいの?会員証はもらえないの?」と私の方から聞いた。
黄色い広告の切れ端みたいな用紙に「住所は?」とってつけたような様子で聞いてきて書き留めている。「会員証は?」しつこくブラウンに聞く。
「このビデオを返却してくれるときにはできてるよ。カード業者に頼んでるんだ。」
そんなたいそうなビデオ屋でもなさそうだけどなー?と不審に思いながら、店を出た。
ビデオ返却日、
「そういえば、会員証はできたのかな?」
「あー会員証ねー。まだ、業者が来てないんだ、何人分かまとめて頼むから。」Mr. Brown愛想よくにこやかに答える。だけど、なんだか嘘くさい。
店にいたブラックのカップル客。名前だけ言ってビデオをどんどん借りていく。誰も会員証なんて見せていない、えー?日付さえチェックしてない。ルームメートのウーちゃんが延滞したときも「Thank You!」と言って受け取っただけ。
ビデオはというと、見かけもボロボロだが、中身も映画館でホームビデオ撮影されたような画像だったり、最後のクライマックスの部分が切れていたりと散々。
「Mr. Brown最後が切れてたよー。」と言うと、「じゃあ今回の分はタダでいいよ。」とぶっきらぼうに答えた。
ある日、犬のドーベルマンと共に私がシェアで住むアパートからでてきたMr. Brown。1998年当時、家賃1000ドルのアパート、彼はここに住んでいるようだ。それにしても、あのひなびたビデオ屋で経営が成り立っているのか不思議だ。『裏で別の商売やってるに違いない。』と確信する私だった。
次号 裏の商売の真相