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第三十五号 03/05/2000
Harlem日記
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*****NY Police Department*****
ディアロ事件で警察のモラルを問われる昨今。NYの警察の実態とは?
日本人集合住宅みたいな日本人だらけのアパートが存在するハーレムウエストサイドにいた頃、同じアパートの友人である愛ちゃん(仮名)がひったくりにあった。
レノックス145丁目のあたりでシャネルのバックをひったくられたという。まあ、ハーレムなんぞでシャネルをちらつかせてる当方にも責任がないこともないが。
彼女は一緒にいた玲子ちゃんと警察に行って事情を説明。なんやかんやと書類を提出した後、かなり落ち込みながら帰宅した。
その夜、愛ちゃんは元気を取り戻すべくビールやらスナックを買って玲子ちゃんと飲んでいた。するとドアをたたく音がー。
「Who is this?」
「Police officer」
盗品が見つかったのかな?などと思いながら静かにドアを開けた。だがそこにいたのは小柄なチャイニーズアメリカン兄さんと白人の兄さん二人。
「僕だよ、今日の夕方調書を取った。」とよくよく見てみると、
私服になった警察のチャイニーズ兄ちゃんだった。 「ちょっといいかなー」とずかずかと部屋にあがりこんできた。
なにが始まるのか?と思うまもなく「ビールもらっていいかな?」とチャイニーズ兄ちゃんが問う。
日本人の女の子だから、ここで「帰れよバーカ!」と言えなかったそうである。
しばらくの間、彼らは共にビールを飲み、スナックをつまむ。勝手におしゃべりをはじめ、すっかり合コンムード。そろそろ眠いなーと愛ちゃんがあくびをはじめた頃に、
「じゃあ、また機会があったら一緒に飲もうよ。」と言いながら彼らは去っていった。
なんで、私らが警察の兄ちゃん相手にホステスしてるんだ?と、ちょっと我に返ったが、アルコールも入っていたので疲れて寝てしまった。
それからひと月ほどたった。
私の部屋に愛ちゃんが居候していたある日、こそ泥が入った。大胆にも、こそ泥は窓から入って愛ちゃんの寝ているリビングルームで愛ちゃんの私物を物色していた。
愛ちゃんは人の気配を感じ目が覚めた。眠気まなこにぼんやりと浮かび上がった後姿は、同じアパートに住む女の子だった。
はっきり目が覚めたとき、愛ちゃんは、私のベッドルームのドアをドンドンッと大きな音をたててノック。
「泥棒がはいったー。」
「えーっ!?」私は寝起きだったため、低いおっさんのような声で驚いた。
彼女のナイキの靴やジーンズ、トレーナー、ブルゾン、私の革ジャンとジーンズ、せこいものばかりが盗まれていた。(そうか金目の物ってそんなものしか持っていなかった。)
彼女は『許せない』と怒りをあらわにして警察へ連絡した。警察はこそ泥ごとき相手にしてくれなかった。愛ちゃんはしばらく食い下がった。「ここであきらめたら日本人がなめられる!」と豪語した。
「そうだ、あのときの遊びにきたチャイニーズの兄ちゃんを呼び出そう。」当時、中学生レベルの英語学校の英語でひーひー言っていた愛ちゃんにしては冴えていた。
「あなたが来てよ。」チャイニーズの兄ちゃんに有無を言わせない勢いで訴える。「じゃあ、今夜、そっちへ行くよ。」と彼が電話で約束。
前回訪問のときと同じペアで家へきた。警察の制服を着たままのチャイニーズ兄ちゃんは、
「僕ら時間外だけど、君の為に来たんだよ。」と、恩着せがましく言った。
愛ちゃんが事件の経過を説明。だが、NY在住1年目の愛ちゃんは英語で説明するのが辛そうだった。しょうがないので私が変わって説明。
「君は英語がしゃべれるんだね、名前なんて言うの?ニックネームは?」とチャイニーズ兄ちゃんはナンパっぽく言った。私は無視して「泥棒は彼女が寝ている横を通って盗んでるんですよ!殺人の危険性だってあったわけでしょう?」と声を荒げた。
真剣な訴えに応じて、彼も真顔になり「わかった。僕等は事件を捜査できる管轄でないから、刑事に来てもらうように連絡するよ。」と言った。
その話が終わったら、早速、口調が元に戻った。
「NYは長いの?学生?」さらに質問は続く。
「社会人です。明日会社もありますし、用件も終わりましたので、おひきとりください。」きっぱりと言って帰ってもらった。
愛ちゃんによると、次の日の朝、ちゃんと刑事から連絡があって、ごっつい刑事が二人やってきたそうである。
『ナンパな兄ちゃんでもツテは大事にしなきゃ』と思った一件であった。