第1回シカゴ日本映画コレクティブが5月31日までなので、日本映画にどっぷり浸っている。中でも一番気になっていたのは、原発事故で避難地区となった富岡町で避難できない動物たちと共生する「ナオト、いまもひとりっきり」だった。人のいなくなった町で、いったいどんな暮らしをしているのか?同作品は、中村真夕監督が長年にわたって撮影をしてきたドキュメンタリーで、とても淡々と描かれているのだけど、なぜかほのぼのさせられた。そんな中、除染廃棄物が入った黒い袋が山積みされてる風景は、不気味さがなおさら対比となり印象的。
林海象監督作、永瀬正敏主演の「BOLT」、こちらも同じく原発事故に関する映画。主人公の永瀬の暮らしを3章にわけて描いている。永瀬は、原発事故の起こった圧力制御タンクから冷却水が流れ出し、ボルトを締めに行くという任務につく。任務から外された後についてる仕事が、孤独死した人の家を片付ける特殊清掃人という仕事をしていて、かなりグロテスク。最後は、赤いスポーツカーに乗った美しい女性を助けるのだけど、シーンがとても美しくて、見ている側も救われた気がする。はじめにハラハラさせられるシーン、次にグロテスクなシーンに、最後に幻想的で美しいシーンと、1作品でいろいろな感性を刺激された。
漫画を最初にはじめた北沢楽天の半生を描いている「漫画誕生」は、安定の演技をほこるイッセー尾形が、本当に漫画家さんなんじゃないのかってくらいにリアルだった。新鋭の漫画家から抜かれ、落ちぶれてしまった老年期にある楽天のなんともいえない苦悩の姿は、涙ぐましい。その漫画家を支える妻を演じた女優さんも、ベテランって感じで、素晴らしい。今のフワちゃんみたいに、爆笑をとっていた篠原ともえだったと後から知って驚いた。相変わらず屈託のない明るさで、妻の役に適任。
アイドル兼社長の音楽アーティスト眉村ちあき自身がプロデュースした「眉村ちあきのすべて(仮)」この映画で眉村さんの作曲する音楽を初めて聴いた。音のセンスはもちろん、言葉選びも天才的。おそらく生まれもっている彼女の感性から生まれるのだが、映画や音楽のロジカルな世界をぶっ壊すパワーに圧倒された。
「燕 Yan(つばめ、イエン)」は、台湾へ戻った母に連れられていた兄と、日本に残された弟との再会が描かれている。映画の最後に近づくまで兄弟が会話しないのが、もどかしかった。台湾の風景が日本の昭和時代のような懐かしい雰囲気で、屋台やバーのネオンのカラーなど、絵に描いたような美しいシーンに仕上がっている。
カリスマ雑誌編集長末井昭の自伝的映画「素敵なダイナマイトスキャンダル」末井の実の母親は、ダイナマイトで隣の家の息子と心中するという、壮絶な死に方を遂げる。その母親役の尾野真千子が妖艶で美しかった。柄本佑演じる末井役がドハマリすぎて、本人なの?って思わせるレベル。アーティストを目指す同志を演じる峯田和伸(銀杏BOYZ)も、かなり味のある演技をみせる。
初犯の人たちを集めカウンセリングをしているようすを2年撮影したという「プリズン・サークル」。それぞれ受刑者が自分の過去を見つめ直し、自問自答していったり、受刑者同志が互いに話し合うというスタイルで、これからどう生きていくべきかを探し出す。いじめの被害者だったり加害者だったりという話が多く、加害者になってる人も、結局はいじめられたくなかったという状況だったりして、日本のいじめの深刻さを目の当たりにした。
ひきこもりや社会に適応できない子供たちを預かり、社会への適応能力をつけていくために、農業をやりながら家族のように過ごす「もみの家」。人前で自己主張できず、ひきこもりで小さな声しか出せなかった16歳の女の子が、自分の思いを伝えることができるまで成長する姿はたのもしい。
全編白黒のサイバー・スリラー「VIDEOPHOBIA」女優になることを目指していた主人公は、一夜をともにした男から、その行為をネットにさらされてしまう。結果、整形することによって別の自分として生きることを選ぶ。映画全体を通してドラマチックな演技もシーンもない。サイバー犯罪の怖さ、演劇クラスの不気味さ、被害者カウンセリングもまるで宗教団体のようで、淡々と描かれている様こそが、リアルな現代社会なのだと気づかされる。
アメリカ在住の方はオンラインで、ぜひシカゴ日本映画コレクティブを楽しんでください。<敬称略 執筆 ベイリー弘恵>
【上映作品】

- All About Chiaki Mayumura (Provisional)/眉村ちあきのすべて(仮)
[松浦本 | ドラマ、音楽、アイドル | 日本 | 2019 | 72分 | 国際プレミア]
- Alone Again in Fukushima/ナオト、いまもひとりっきり
[中村真夕 | ドキュメンタリー、震災 | 日本 | 2020 | 95分 | 北米プレミア]
- BOLT
[林海象 | ドラマ、オムニバス、震災 | 日本 | 2019 | 80分 | 北米プレミア]
- Dynamite Graffiti/素敵なダイナマイトスキャンダル
[冨永昌敬 | ドラマ、伝記 | 日本 | 2018 | 138分 | R15+ | 中西部プレミア]
- House of Seasons/もみの家
[坂本欣弘 | ドラマ | 日本 | 2020 | 105分 | 国際プレミア]
- The Manga Master/漫画誕生
[大木萠 | ドラマ、伝記 | 日本 | 2019 | 118分 | 北米プレミア]
- Prison Circle/プリズン・サークル
[坂上香 | ドキュメンタリー | 日本 | 2019 | 120分]
- VIDEOPHOBIA
[ 宮崎大祐 | ドラマ、スリラー | 日本 | 2019 | 88分 | 米国プレミア]
- Yan/燕 Yan
[今村圭佑 | ドラマ | 日本 | 2019 | 86分 | 北米プレミア]
【あらすじ】
1. All About Chiaki Mayumura (Provisional)/眉村ちあきのすべて(仮)
眉村ちあきとは何者なのか。アーティスト?社長?彼女のクローンたちが世界で大活躍?!彼女の魅力を余すところなくキャプチャーしたジャンルなしのアイドルインディー映画。
公式サイト:https://spotted.jp/2020/02/all_about_mayumurachiaki/
2. Alone Again in Fukushima/ナオト、いまもひとりっきり
福島原発事故で全町避難になった富岡町で、置き去りにされた動物たちと暮らし続けるナオトの今。2015年「ナオト、ひとりっきり」続編。
公式Facebook:https://www.facebook.com/aloneinfuksuhima/
3. BOLT
林海象監督が震災時の福島で聞いた実話をもとに、命を懸ける男たちなどを圧倒的な映像美で描く人間ドラマ。林監督盟友、永瀬正敏主演。
公式サイト:http://g-film.net/bolt/
4. Dynamite Graffiti/素敵なダイナマイトスキャンダル
昭和のサブカルチャーをけん引したカリスマ雑誌編集長、末井昭の自伝的エッセイを映画化。出演、柄本祐、前田敦子他。R15+。
公式サイト:https://dynamitemovie.jp/
5. House of Seasons/もみの家
不登校になってしまった少女が自立支援施設「もみの家」での出会い、仲間との生活を通して、自分を取り戻してゆく物語。
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/mominoie/
6. The Manga Master/漫画誕生
イギリス「大英博物館」でも上映された、日本における近代漫画の祖とされる北沢楽天の半生を描いた伝記映画。
公式サイト:https://www.mangatanjo.com
7. Prison Circle/プリズン・サークル
取材許可に6年、撮影に2年を費やし、日本で初めて刑務所にカメラが入った受刑者の生い立ち、素顔に迫る衝撃のドキュメンタリー。
公式サイト:https://prison-circle.com
8. VIDEOPHOBIA
女優になる夢を諦め大阪の韓国街に帰ってきた女が、一夜の情事をネットに晒され、精神を病んでゆくサイバー・スリラー。
公式サイト:http://videophobia2020.com
9. Yan/燕 Yan
若きトップカメラマン今村圭佑監督の初長編。「自分は捨てられたのか−」自分を残し、兄と台湾に帰ってしまった母親への思いを胸に、20年以上の時を超え、台湾に住む兄に会いに行く家族ドラマ。
公式サイト:https://tsubame-yan.com
+開催期間:2021年5月25日(火)〜5月31日(月) 23:59(米国中部時間)
+オンライン視聴(全米)
+映画祭プラットフォーム:http://cjfc.eventive.org
+公式ウェブサイト:https://www.cjfc.us