子供虐待防止をゴスペル音楽で伝えたい〜打木希瑤子

スーパー・エキセントリック・シアターに所属し、日本で「ゴスペル・ナウ」というゴスペルのショーを行うため2000年より、ニューヨークへ行ったり来たりしながら、ハーレムでゴスペル・ショーのプロデューサーとして活躍。現在は日本の子供虐待防止運動(オレンジリボン運動)を啓発するためのイベント、オレンジゴスペルのツアーも行っている。だが、過去には結婚したばかりの夫からメンタルなDV(ドメスティック・バイオレンス)にあったことで、離婚後、毎日どうやって死のうかと考えるほど追いつめられ、鬱におちいったという。

©Orange Gospel 打木希瑤子

「ニューヨークに2004年の夏に来たのですが、新米プロデューサーだったからか、とても協力的なメンバーがいました。そのメンバーと結婚することになったのです。ビジネスは波にのっていましたし、過去に離婚歴があって悩みましたが、やはり結婚や子育てが自分の人生はメインだって思っていたこともあって結婚を決めました。ところが、結婚してから彼は『俺がいないと、お前なんかアメリカで生活できない』とか、英語のできない息子に『お前の息子はバカだ』とか、言葉の暴力をあびせるようになりました。

国際結婚だから、文化的背景もちがうしすれ違いだろうと思っていて、それをDVだとは理解していなかったんです。息子の学校への支払いがあるとき、チェックでしか受けとってもらえないので、私はまだ銀行口座を開いてなくて、夫にチェックを書くよう現金をわたしていたのですが、ある日、学校から支払いが滞ってるうことを知らされ、夫に聞いたところ「おかしいな?」と、トボけた反応でした。

問いただしていくと、逆ギレされて『今すぐお前と息子を追い出してやる。日本から来ている親子とシチズンの僕と裁判官がどっちを信用すると思う?僕がストーリーをつくってでも、お前を不幸にしてやる』って脅されました。さらには、夫が家賃も延滞していたため、アパートを追い出されてホームレスになったこともありました」

家を追い出されたあと家主と裁判になり、家賃は結局、打木が払うことで和解することとなった。光熱費も1年半滞納していたという。元夫は言葉の暴力をしかけてくるだけでなく、お金にもルーズな面があったのだった。そんな元夫に対し、好きな相手とニューヨークで暮らしているのに、苦しいばかりで楽しくないことに、はっきり気づいたのだという。

「お金を渡すと、夫は泣きながら『ぜったいにやり直す』って言うので、もう一度チャンスを与えてやろうって許してしまいました。それに日本から連れてきた息子が、生活環境が変わったばかりでアジャストしようとがんばってる姿を見て、また日本にとんぼ返りするのは申し訳ないって思って我慢していたんです」

元夫は、打木親子のビザの手続きもまったく進めていなかった。弁護士に相談したときに夫との関係も話した。「ちょっと普通ではないようだから、もし次に何か口論になったら、警察を呼ぶように」と助言されたのだった。

「私は日本人だし、夫婦喧嘩に警察をよぶなんていう発想がありませんでしたが、その言葉に救われたんです。大晦日の晩、夫と口論になって、私の携帯電話は、夫の名前で契約していたのですが、『俺が携帯を契約してるのだから、これは俺のものだ』と、私の携帯をとりあげ窓から投げようとしました。仕事にも使っていて、すべてのコンタクトが携帯に入っていたんです。電話を取り返そうとしたときに、そこで初めて夫に押されてフィジカルな暴力になりました。

弁護士さんが警察を呼ぶようにって言ってた言葉を思い出し、息子が見ていたので、息子に隣の家へいって警察に通報してもらうようにお願いしました。すぐに警察が二人来たのですが、夫は、『自分が妻にハラスメントを受けているから警察に通報した』と言い張ったんです。あなたの話は後で聞くからと、警察は夫と話始め、私は席を外すように言われました。

元夫は、自分がアメリカ人だからアメリカの警察は、自分のほうを信じるのだと勝ち誇ったような微笑みを浮かべていたという。警察と元夫は30分くらい話をした後に、今度は妻と話したしたいと、打木を外へ連れ出して話を始めた。

「『彼がDVの加害者で、あなたはDVの被害者です。彼は興奮状態にあるので、今晩もしかしたら、このまま一緒にいると首をしめにくるかもしれない。DVって、最初はちょっとしたことがきっかけで、ポンッと押すくらいとかが、どんどんエスカレートするから、今すぐ家をでなさい』って言われました。それでも納得がいかず、『私は何も悪くないのに、なぜ私が家をでなければならないの?』って言ったら、『息子さんの命が大事なら、今すぐ出なさい』って」

息子と二人、大晦日、ホームレスになった。家を出ていくようにアドバイスをくれた警察官二人は、DVに詳しい人だったという。レポートを頼まずとも、DVのレポートを書いてくれたのだった。「これはあなたの身を守るためのものだから。ご主人にはぜったいに見せないように」とレポートを渡され、警察からシェルターへ行くように勧められた。

「シェルターにどうしても行く気になれず、息子とスーツケースを持ってオフィスへ行きました。携帯を夫にとりあげられていて誰にも連絡できず、名刺には、仕事の連絡先しか書いてないので、大晦日の夜ですから連絡がつくわけもなく。一人だけ携帯番号を書いてくれてる人がいて、その人の家でお世話になることになりました」

その後、裁判で離婚が成立した。だが、ニューヨーク州は米国内でもっとも離婚が難しい州であり、DVは証明するのが特に難しいため、弁護士の第三者である警察を介入させるという助言と、警察のレポートがなければ離婚は成立していなかったのだという。

「DVのカウンセリングを受けることになりましたが、私は当初、自分のことをDVの被害者だと認められなかったんです。DVの被害者になる人は弱い人だって思っていたので、メンタルだけでなく、立場上もプロデューサーである自分が被害者になるわけないって。それに被害者になることは、カッコ悪いっていう先入観があったんです。しかしカウンセリングによって、引き出されたのは経済的、精神的、性的なDVもあったのです。DVというのは、いろいろな方向から始まっていたのだとわかってきて、元夫ともうちょっと長くいたら、暴力のDVも受けていたかもしれません」

離婚の裁判と同時に、ビザのステータスについても元夫が申請していなかったため裁判になった。裁判は同時進行で、辛い出来事を同時に話さねばならなかった。同じ神様を信じるクリスチャン同士の結婚だったはずなのに、元夫との辛い出来事を思い返すたび、自分が何のためにここにいて、何をやっているのかわからなくなっていったという。裁判をやってるときは忙しくしていたので精神力を保っていたが、終わってからは鬱病になった。

「人間ってそもそも嫌なことを忘れようとするのですが、裁判によってその忘れようとする嫌なことを話さなければならないのです。私は人を励まそうと思ってゴスペルのショーをつくっているのに、神様はなぜ私をここへ連れてきて、試練を与えられているのかがわからなくなって、神様までも信じられなくなって鬱になりました。もう何もかもが無理って思って、日に日に自殺願望がひどくなっていったんです。

いつも朝になると、どうやって死のうかって考えるんです。子供を学校へ送っていった後、どうやって死のうかなーって考えるんです。それでも子供を迎えに行く時間になって、子供にご飯をあげて、寝かせて、今日も死ねなかったって思うんです。また次の朝起きると、今日こそはどうやって死ねるのかなって考えるんです」

そんな暮らしをしていたせいで、会社も退職した。もはや経済的な生活力さえも失ってしまっていた。だが、DVカウンセリングと信仰に立ち返ることによって救われることとなる。

「さらにカウンセリングの中で、元夫もDV被害者である可能性が高いということがわかりました。それは親からの虐待で、ネグレクトや多干渉、性的虐待も多いということ。彼のほうにもなんらかの原因があるかもしれないと聞いたのです。アメリカの男の子ってマザコンが多いというのは聞いていましたが、よく考えれば彼は異常なマザコンでした。40歳くらいの男に、母親が下着や靴下まで送ってきてくれていたんです。まるで自分の人形みたいに息子を扱う。実は、私たちの間で性交渉がなかったのですが、もしかしたら性的なハラスメントもあったのかもしれないって思いました。

神様がこの苦しみを与えたのは、この世からこうした子供の虐待をなくさなければ、お前みたいな被害者が、もっとでるんだぞって教えられたのだと思ったんです。子供への虐待防止運動のためにゴスペル音楽が助けにならないのかって、イベントを企画しようって。仕事もなくして時間があるので、子供たちへの親からの虐待の状況を調べていたんですが。アメリカには、すでに虐待された子供たちを援助するNPO(Non Profit Organization)がいっぱいあって、そうした虐待やDVに対する知識もレベルが高かったのです。

だったら日本はどうなのかって思ったら、子供たちへの親からの虐待が増え始めていて、2005年にようやく子供への虐待に対する運動が立ち上がったばかりでした。その年はまさに私が虐待を受けていた時期と重なっていたので、これだって、ビビッてきました。これをやるために私はこんなに苦しんだのだと」

Andrea-Niigata
©オレンジゴスペル 2018年来日ゲストのアンドレア・マクラーキン・メリニ

日本の子供虐待防止運動(オレンジリボン運動)をPRしようと決めイベント名をオレンジゴスペルとしてプロデュースすることとなった。ゴスペル音楽によって愛を伝え、日本で虐待を受けているたくさんの子供たちや子育て従事者たちを救う活動である。

「ゴスペル音楽は、本来、愛や希望を伝える音楽です。虐待やハラスメント、いじめを解決するため救いになるのは、法的なものも必要だけど、一番大事なのは愛です。その愛を伝えたいって思ったので、愛のこもった音楽であるゴスペル音楽によって愛を伝えたいって思いました」<敬称略 取材・執筆 ベイリー弘恵>

【プロフィール】
打木希瑶子(うちき きょうこ)
音楽プロデューサー。NY州法人「NYハレルヤ・カンパニー」にてアーティスト・音楽作品・コンサートやイベントのプロデュースを手掛ける。グラミー賞、Gospel Music Association、Bethel Gospel Assemblyメンバー。米国最大級でエミー賞受賞の「マクドナルド・ゴスペルフェスト」審査員。一般社団法人日本ゴスペル音楽協会参与役員。オレンジゴスペル実行委員長。

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