私が初めて多恵子の歌う姿を見たのは2005年ごろ、ハーレムにあるレストラン。当時から、繊細そして可憐にジャズを歌いこなす姿は、プロのジャズシンガーとして堂々たるものだった。アメリカ人の夫に「見た目からして、あのシンガーはぜったいに日本人よ」と私は話していた。だが夫は「発音がネイティヴだから、日本人じゃないよ」と信じなかった。だったら声をかけてみようということになり「はじめまして」私から声をかけると、「はじめまして」と多恵子は答えた。初対面なのにとても気さくな女性だった。
これをきっかけに何度か取材を申し込み、ジャズについて語ってもらった。彼女は、1998年からニューヨークでジャズシンガーとして活動し、ニューヨークのジャズクラブや日本でもジャズを歌い続けてきたのだ。いよいよこの2月11日に、ニューヨークで1949年からジャズの黄金時代を牽引してきた、バードランドにてライヴを行う。バードランドは、チャーリー・パーカーやマイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、カウント・ベイシーほか大御所ジャズ・ミュージシャンが出演しライヴレコードを残している。
今回のライヴを前に、多恵子から意気ごみを語ってもらった。
「老舗中の老舗『バードランド』への出演の機会を得たことには、プロダクションの力やコネなどなくしては日本人ジャズシンガーがなかなか開けることの難しい大きな扉がようやく実力で開いたという実感があります。しかも、ここからこの先のひろい世界にこれからどう向かっていくかが一番肝心で、その第一歩として、今回のショーは大事な大事なスタート地点です。2007年の全米デビューより数えて来年で10周年。この1月に勝負に出てヒルトンホテルでのカンファレンスでショーケースをしたことでエージェントもつき、これからがプロとしての本番と思っています。
といっても子育ての傍らですので、行動に限りはありますが、子供に教えられながら、よりいっそう内容のある歌をお送りできるものと信じています。いろんな経験を経て20年後くらいにいちばんいい歌を歌っていると思いますから、どうぞみなさん末長くお付き合いください!
なんと多恵子は現在は、1児のママでもあるという。どうやって育児とジャズを両立しているのかといえば、
「家ではどうしてもお母さんになってしまって、家の外に出ないと自分のことに集中できないので、この頃は練習するにしても家を出てスタジオを使っています。どちらも片手間で中途半端にならないように、家にいるときは子供と過ごす!夫やベビーシッターさんの助力を得て一旦外にでたら、短時間で集中して音楽に没頭する!を心がけています」<敬称略 取材・執筆 ベイリー弘恵>
ぜひバードランドにて、多恵子の生の歌声を聴いてほしい。
【ライヴの詳細】