アメリカでは病院に予約を入れるときから、まず「どちらの保険をお持ちですか?」と聞かれる。病院側も、どこの保険会社から保障があるという点から、患者の支払い能力を見極めるのだ。もし保険がなければ、患者は多額な医療費を請求され驚くこととなる。
以前、私は「耳が聞こえにくい」と同時にうったえる双子の娘を耳鼻科へ連れて行ったことがある。なんと二人そろってレーズン状に巨大化した耳垢がたまっていたのである。すぐにドクターが耳の掃除機みたいなもので、それを取り出してくれた。しかしこの治療で請求された額は、なんと556ドル(約6万9千円)ほど。夫の会社はアメリカでもメジャーな保険に入っているのですぐに保険会社へ電話した。「最初に保険会社が負担する1000ドルを使いきったので、次の1000ドルは加入者の負担になります。その1000ドルを払い終えたら、今度は保険会社が80パーセントを負担し、加入者が20パーセントを負担することになります」と回答された。
こうして保険に加入していても、場合によっては加入者の全額負担となるケースがあるのだ。オバマケア(オバマ大統領が2014年より施行している国民皆保険制度)がなんだかんだ、周りがざわざわし始めてからも、私は保険にまったく関心がなかった。が、このことでアメリカの保険っていったい何なの?と疑問に思い始めた。
NY1PAGE.COMでは、これから数回にわたって米大手保険会社ニューヨークライフでファイナンシャルプランナーとして現役で活躍中の浅井早苗さんにお話をうかがう。
ベイリー
まずは保険の基本を教えてください
浅井
アメリカでこれから生活しようと思ってる人へ、わかりやすくご説明していこうと思います。まず、どこに住んでいようともファイナンシャルプランニングは必要です。そのファイナンシャルプランニングには3つのステップがあり、最初のステップがプロテクション、リスクに備えるということです。
最近では日本でもよく聞かれる言葉だと思いますが、「リスクマネージメント」です。
ベイリー
リスクマネージメントというのは、どういうものですか?
浅井
2つの要素があります。一つは保険、もう一つは緊急費用対策。保険には、「健康保険」「生命保険」「身体障害保険」「介護保険」があります。
緊急費用対策とは、もし何らかの理由で仕事ができなくなった場合、生活費用として月にかかる生活費用の3ヶ月~6ヶ月分の蓄えが銀行口座に必要だと言われています。逆に言うと、それ以上の貯蓄が銀行口座にあると、目的がある場合を除いては投資の機会を失っていることになります。
生命保険でそれを積み立てておくこともできます。
続いて、ファイナンシャルプランニングの2つ目のステップ、アキュムレーション、貯蓄について説明します。
例えば、家を買おうと思えば、ダウンペイメント(頭金)も必要となりますし、子供がいれば教育費用も必要であり、仕事をリタイアすれば、生活費用として年金が必要になります。
国から支給される年金の額は、どんどん少なくなっているため、個人がどれだけ蓄えているのかが大切になってきています。
401K制度(アメリカでは、個人拠出に事業主が上乗せするマッチング拠出を認めている)で、会社がマッチングしてはくれますが、マッチングの搬出額は次第に下がっていて、自分の給与から搬出していかなければなりません。加えて、退職金も出さない会社が増えてきています。
リタイア後の保障は、国から個人へ、会社から個人へとシフトしてきているのです。それはアメリカだけでなく、日本も同じです。
3つ目のステップは、年金システム作り。いよいよ年金生活に入られるとき、如何に所得税を少なくし手元に残す年金を多くするか、そのシステム作りが大切になります。
以上の3つのステップを順番に確実に積み上げていくと、しっかりとしたファイナンスプランが築けられます。
次回は、プロテクションで紹介しました生命保険について、ここアメリカの生命保険の特徴をご紹介します。
【プロフィール】
浅井早苗 (あさいさなえ)
明治大学商学部卒業。日本の金融業界で営業とマネージメントを経験後、
NYUのファイナンシャルプランニングコースを履修。
2005年よりNew York Lifeにて個人、法人に向けて保険、
年金、投資などの金融商品のコンサルタントとなる。
NY日系人会主催によるシニアウィークでの講演会をはじめ、
あらゆる世代に向けたファイナンシャル計画の重要性を提唱。
また書道師範として学校、美術館、協会での書の指導も積極的に行う。
E-Mail : sasai@ft.newyorklife.com