日本にいながら本場NYブロードウェイミュージカルのレッスンが受けられる。そんな、ブロードウェイを目指す人にとって夢の様なプログラムがあることをご存知でしょうか?
Broadway in Japan(BIJ)では実際にブロードウェイの有名ミュージカルで活躍する俳優達を日本に講師として招き、ワークショップを行っています。今年の6月にも日本でワークショップの第三弾を開催予定です(詳細は後編の最後をご覧ください)。今回はBIJ創立者、ディレクターであり、本人も実際に「RENT」等ブロードウェイの舞台で活躍するマユミ・アンドウさん、そしてアソシエイト・ディレクターで日本の舞台でも活躍中の辛源さんにお話を伺いました。BIJにという団体について、そしてお二人のミュージカル俳優になられたきっかけなどまでたっぷりお話いただいたロングインタビューを前編、後編にわけてお送りします。
−−−−まずBroadway in Japan (以下BIJ)とはどのような団体なのでしょうか?
マユミ: BIJ is a passion project for me–it combines everything I believe in into one program–and I want to share it.
(BIJは私の情熱をかけたプロジェクトです。そして、私の信じていることを、BIJを通じてシェアしていきたいと考えています。)
辛源:BIJはブロードウェイのコミュニティ、そして俳優の育成を日本とつなげる、そしてハイクオリティな経験を日本でしてもらおうという団体です。日本ではミュージカルが盛んなわりに、意外とプロデューサーレベルより下の人たちの中でブロードウェイと直接的なコネクションを持っている人がすごく少ない。ブロードウェイに来てもどこでトレーニングを受けていいかわからなかったり、英語では沢山そういった情報が提供されているけど、日本語の情報が少ない、トレーニングを受けたいけど受けられないって人がたくさんいます。もちろんニューヨークに来るのもお金がかかる。じゃあ僕たちの方で、僕たちのノウハウを使って本当にブロードウェイの第一線で継続的に活躍している先生達を厳選し、こっちのアクターが受けているレベルのワークショップを日本で日本語で再現しようっていうのが僕たちのしていることです。
マユミ:I observed a lot of Japanese people who have spent their life savings to study dance and singing in NYC, and I thought that there must be a better, more affordable way for Japanese performers to get NYC training. BIJ brings New York to Japan, essentially. I think it is a great form of cross-cultural education in the Performing Arts. We’ve done BIJ workshops twice officially in Tokyo since we launched last year. And what we learned is that beyond being an educational program, we have created a community, which is incredible! We observed how our faculty—teachers who are professional musical theatre actors and directors—inspire our students. Some students were so inspired that they have come to NYC on their own to continue training, but with more knowledge and connections than they had prior to BIJ. At the same time, our teachers tell us that they are attached to Japan now, and that the students have changed their lives for the better. We are continuing to keep in touch, particularly through social media, so our community is strengthening and growing, which is very exciting.
(私たちは多くの日本人がNYでトレーニングを受けるために貯金をはたいている人をいままでみていて、もっといい方法がないか、模索していました。そこで、私たちはNYを日本に持ってくることにしました。パフォーミングアーツにおいて、とても有意義な異文化教育のカタチだと思います。私たちは今までに東京で二回BIJを行っていますが、その中で私たちが学んだことはBIJが教育プログラムを越えてコミュニティを作り始めているということです。これは素晴らしいことです! プロのミュージカル俳優であるBIJ講師達が生徒達をインスパイアしているのを間近に目撃しました。BIJを受けたことがきっかけで、ニューヨークに単身で留学にいった生徒も何名かおり、BIJで作ったコネクションや知識をフル活用しています。同時に、BIJの講師も日本が大好きになり、日本での経験で人生が変わったと言っているんです。私たちはこれからも継続的にBIJのコミュニティーとSNSを通して連絡をとりあい、相互に成長する方向にもっていこうとしていて、とても楽しみです。)
−−−−プログラムはどの様な人をターゲットにしているのですか?
マユミ:Everybody! Originally we aimed to offer professional Broadway training to the professional musical theater community in Japan, but we’ve learned that it does not matter what level we teach. If someone has never taken dance class, he/she joins us anyway. We’ve had beginners in the same class as Japanese professionals such as Mizu Natsuki (Takarazuka), Chihiro Otsuka (In the Heights), and Sylvia Grab (On the Town). Regardless of who is attending, one thing our teachers don’t do is “dumb down” class. They are in Japan to introduce Broadway-caliber training, so classes are tough! But the teachers are also aware of the various levels of students, and make sure everyone is challenged, but not left to feel defeated. This mix of levels is very New York and perhaps goes against traditional Japanese education. But it has worked well so far for us! As we expand, we plan to create more classes and workshops solely for professionals.
(みんなです。元々、日本のプロの俳優たち向けにブロードウェイのトレーニングを提供しようと考えていました。しかしいざやってみると、一度もダンスのレッスンを受けたことのない人でも、かわらず上級者と同じレッスンを受けることに意義があるということに気がつきました。例えば、日本でプロとして活躍している大塚ちひろさんや水夏希さん、シルビア・グラブさんたちなんかと一緒に。今のところは本当にミックスしています。それはとてもNYと同じです。これは日本の教育とは逆ですが、今のところは大丈夫です。将来的にはもっとクラスを作って、もっとプロフェッショナルなレベルも作りたいと思っています。)
辛源:日本だと一般的にプロとしてすでに活躍している方と、アマチュアが一緒にレッスンを受ける機会はあまりないと思うんです。ニューヨークだとそんなことはなくて、プロでも、バレエのレッスンなど、どんな上級者でも基礎に戻ってレッスンを受ける。ボーカルならボーカル、ダンスならダンスのレッスンをみんな経験して、稽古場に来るときにはもう全部出来ているという状態。ただ僕が見てきたところ日本でプロとして活躍する人がレッスンを受けられるのは稽古場。その分演出家が演出以上に教育をするという責任がもとめられるから先生と呼ばれるんです。そこで、BIJが目指すレッスン環境というのは失敗をしてもいいという環境です。間違いを犯したからと言って、それが失敗ではなくそこから学べる安全な場所を提供する。どんなにプロとして活躍している人たちにも駆け出しのころがあったわけで、BIJの中は1つの安全な場所としての”Immunity”がある。そこでおきたことはスタジオの外には出ない。自分の安全圏から一歩踏み出した探索をするための失敗が出来る場所なんです。
マユミ:This idea is at the heart of BIJ because I think it is the only way that we can continue to grow as creative people. People who try new things, make mistakes, and keep forging through their fears are the people who grow the quickest. Offering a safe space to create and learn is our goal. An example of growing through mistakes is how to learn to handle mistakes at auditions. We teach this technique and mindset at BIJ. When you make a mistake, you stick out. Sticking out is not necessarily a bad thing! If you handle your mistakes well, it allows the people behind the table (casting director, director, etc) to see how you quickly handle problems. They can see you beyond the performer that you are, but as a unique individual who can think on her/his feet creatively and wisely. Imagine a casting call where you are required to watch hundreds, even thousands of performers. You can understand how someone’s uniqueness helps them be remembered.
(これはBIJの核心にある考え方です、なぜならクリエイティブな人間にとって、それが成長し続ける唯一の方法だと思うからです。挑戦し、失敗しても、さらに挑戦する人だけが成長できます。失敗して学ぶことを促すような安全な場所を提供することが私たちの目的なんです。例えば、オーディションでの失敗は、失敗から学ぶ大きなチャンスでもあります。BIJではそのテクニックとマインドセットを教えます。失敗をしたとき、人は目立ちます。でも、目立つのは必ずしも悪いことではありません。その時にリカバリーがうまくいけば、テーブルの後ろの人たち(演出家、キャスティング・ディレクター等)に問題対処能力をみてもらえます。すると、パフォーマーとしての実力のみならず、クリエイティビティをもったユニークな個人としてみてもらえます。100人も1000人も審査しなければいけないオーディションを想像してみて下さい。その人のユニークさが、覚えてもらえるきっかけになることが理解できます。)
−−−−Mock Audition(模擬オーディション)もプログラム内で行っていますよね。
マユミ:I think that at real auditions everyone is nervous, so we introduce the mock audition on the first day of the workshop – it simulates best what a NYC audition is like. It is nerve-wracking for many, but what students soon discover is that BIJ is a safe place. Even though it is initially daunting, the fact that you got through the mock audition and completed BIJ will be key experiences for the future.
(本物のオーディションでは緊張するものです。そこで、模擬オーディションとして、ワークショップの初日にニューヨークでの一般的なオーディションを再現します。これはとてもチャレンジングで恐ろしいです、だからこそ私たちはこのような失敗できる安全な環境を作りたいんです。完璧である必要はないんです、このオーディションは本物ではないのですから。たとえそれ
が挑戦であっても怖くても、それを経験したという事実は将来の糧になります。ワークショップの初日はみんな一生懸命レッスンを受けます、そして技術を磨き、また練習し続けます。)
辛源:模擬オーディションは一日目と最終日の全二回あります。一日目の一番始めにまず全員の前でオーディションをすることで、お互いの失敗から何か学びとることができます。さらにオーディションの後に先生からフィードバックをもらい、全員分のアドバイスを自分も聞くことが出来る。まず人のオーディションの風景を見る機会っていうのはなかなかないのでまずそれを経験する。そして最終日は本当のオーディションのように一人一人先生の前でオーディションするんです。
————なぜBIJを立ち上げようと思ったのですか。
マユミ:As I mentioned, BIJ is a passion project of mine; it’s basically based off of the way I look at my life. All that I love is BIJ. Even though I had great job, I wanted to do something more impactful that included my family and friends and possibly, the world. I knew that to be close to my family who live in Japan now was important. I also wanted to be able to work with all the friends who I worked with on Broadway and introduce them to Japan—an important part of my background. Finally, I wanted to continue to have the performing arts as an integral part of my life. When I thought about an ideal career/future, it turned out to be BIJ.
(先ほど言ったように、BIJは私の情熱をかけたプロジェクトです、私自信の人生観に沿っています。私の愛するもの全てがBIJなんです。たとえ私が素晴らしい仕事をしていたとしても、私は家族や友達、そして出来ればこの世界にもっと影響を与えることがしたかった。また、今日本に住んでいる私の家族に近づき、私がブロードウェイで共に働いたすべての友人達ともう一度仕事をし、そして彼らに私の文化の一部である日本を紹介したいと思っていました。そして最後に、常に私をとても幸せにしてくれるパフォーミングアーツを人生の核の部分におきたいというのがありました。私が出来ることを考えたとき、私の愛する全てのことがBIJにはあったんです。)
————普通の日本のダンスやワークショップとの違いは?
マユミ:The most important thing we have is what no one has in Japan. We bring the most contemporary and up-to-date training and performance to Japan. Musical theatre on Broadway is constantly changing. We don’t bring what was popular 20 years ago – although we respect, treasure, and are influenced greatly by it. For practicality’s sake, we want Japanese performers to have the opportunity to learn from what and who are in season now. For example, two performers who were in IN THE HEIGHTS joined us as teachers in the first BIJ workshop, and we were able to teach Broadway original IN THE HEIGHTS choreography, which is a combination of jazz, contemporary, and hip-hop. Learning original choreography of a new show is not only exciting; it is the best way to stay up to date in current Broadway dance styles.
(BIJが提供するものの中での一番重要なのは、最も現代的な、最新のトレーニングやパフォーマンスです。これは日本ではBIJ以外では提供されていません。ブロードウェイミュージカルは常に変化しています。20年前に流行ったスタイルだけをもってくることはありません。もちろん、その流れには敬意を払い、大切にし、影響を今でも受けています。しかし実用性の観点から、日本の生徒には出来るだけ最新のトレーニング方法を提供します。 例えば、第一回のBIJにはミュージカル「イン・ザ・ハイツ」に出演していた俳優が講師として参加しました。「イン・ザ・ハイツ」では俳優達はヒップホップを踊りながら演技をします。そして、BIJでもブロードウェイの「イン・ザ・ハイツ」のオリジナルの振付けを教えることが出来ました。それはジャズダンス、タップダンス、ヒップホップを組み合わせた振付けです、伝統的なジャズではありません。最新のブロードウェイミュージカルのオリジナル振付けを学ぶ機会は楽しいという以上に、最新のブロードウェイのダンススタイルを知り、アップデートしていく一番の方法なんです。)
辛源:僕の考える大きな違いは、先生からの指導やフィードバックが駄目出しじゃないということ。僕の経験からすると歌い方が良くないとかダメだしというかたちで指導が始まることが多いんです。勿論ダメだしが必要なこともありますが、それに慣れると、問題は俳優が自分で考えることをしなくなること。自分でActing choiceを作って芝居ができない俳優ができあがってしまうということです。演出家のまるで振付けを与えるように動きを全て決める演技指導に慣れると、いざ自分で演技を考える場面でできなくなってしまう。BIJでは先生たちがフィードバックのなかでダメだしではなく「誰に対して歌っているのか」とか、「じゃあその人に向かって歌ってみて」、「その人に近づきたいけど近づけない、その葛藤を表現してみよう」とか足し算の演技指導をすることでダメだしをせずとも自然にいらないものが削がれていく。これによって俳優が自分から積極的に演技をするし、演じている俳優も楽しい。BIJでは演じることの楽しさを覚えて帰って欲しいし、実際の受講者の感想でも改めてその楽しさを思い出したという人も多かったです。
マユミ:It is important to enjoy what you do, and feel free and confident in making your own choices.
(自分のしていることを楽しむことは重要です、そうして自分で選択する自由を学ぶんです。)
−−−−なるほど。私は多くの素晴らしい実際に有名なミュージカルで活躍している講師陣も他と違う要素の1つだと思うのですが、どのようにして彼らが講師をしてくれることになったのですか?
マユミ:We are very selective about our faculty members. We don’t want to just offer famous people. Throughout my career, I was able to meet very like-minded performers, directors, musicians, etc. We share the same heart, the same idea and the same goal. When I ask them if they are interested in coming to Japan as faculty of BIJ, they immediately jump on board because they believe in the mission of BIJ. It is also key that they are not only successful performers, but also successful teachers. Being a good performer and a good teacher are not synonymous. To be able to be good at both is rare.
(誰を講師にするかということに関してはとても入念にセレクションします。私たちはただ有名な人たちを提供したいのではないんです。自分のキャリアのなかで私はとても考え方の似ている俳優たちに出会いました。みんながBIJと同じ様に考えているわけではないんです。私たちは同じ気持ち、考え方、ゴールを共有しているので、とてもスムーズに物事が進みます。私が彼らに日本にBIJの講師としてきてくれないか聞くと彼らはすぐに行きたいと言ってくれました。なぜなら彼らはBIJの使命に賛同してくれているからです。多くの俳優達が日本に興味を持ってくれていますが、彼ら全員に講師を頼むことはありません。講師達が私たちの考え方に賛同してくれている、そしてパフォーマンスの教え方を知っているということはとても重要なのです。私たちの提供する多くの講師は成功した俳優というだけでなく、講師として成功している人たちでもあるんです。良い講師と良い役者というのはとても違います。両方であることは珍しいんですよ。)
後編ではお二人のミュージカル俳優を目指したきっかけやニューヨークという街の魅力についても伺います。
インタビュー後編はこちらです!
(取材・執筆 関詩織)
Broadway in Japan
http://www.broadwayinjapan.com
本場ニューヨーク、オン・ブロードウェイ・パフォーマーだけで構成された最強のプログラム! / BIJ provides professional, Broadway-caliber, performing arts education in Japan!
読んでいるだけで、とてもワクワクする素敵なプロジェクトだと思いました!
日本にブロードウェイを持って来るなんて凄いですし、それに賛同してくださる方が居てくれる事が、何より、今後の日本のミュージカル界を活性化させる潤滑油の様な存在なのだと思いました。
プロとして、舞台に立たれている方と同じトレーニングを受けられる事は、舞台を目指す人にとっても良い刺激になりますし、本当に素晴らしいプロジェクトです!
何かお手伝い出来る事があれば、幸いです。