世界で自分にしかできないことをやる~バイオリニスト木村まり

「学生たちには、世界で自分にしかできないことをやりなさいと教えています」

木村は自分にしかできないことが、これだと思えば突き進み、自らそれを成し遂げてきた。

「人生ってなんだろう? って考えたときに、自分が人や世界のために何を残していけるのかということが、存在意義なのだと思っています」

29歳のころに、チェロでしか出せないくらいの低音を出すことに成功したのも、これだという思いで突き進んだ結果だった。1年後、ニューヨークでのリサイタルデビューで、その低音を使った曲を演奏。バイオリン史に名前を刻むことになり、ニューヨークタイムズ紙でも大きく取り上げられた。

marisan太陽熱の研究をする早稲田大学理工学部教授の父と、国際労働機関(ILO)活動推進日本協議会の理事長をつとめる母のもとに生まれた。高校に進学するころ、物理か音楽か迷った木村に、父は「音楽をやるなら若いうちに選べ」と言った。両親に干渉されなくて済むという理由で、結局音楽を選んだが、「ところが、物理と音楽はつながっていたのです」と言う。

ボストン大学にいたころ、電子音楽のクラスで教授から「あなたも作曲しなさい」と、言われた。日本では演奏家と作曲家は別ものだと教えられたからか、その言葉は目からうろこが落ちた思いだった。ジュリアード音楽院に行くと、コンピューター開発に携わる人々との出会いから、木村自身もコンピューターを使った音楽を作るようになる。このあたりに物理との接点があるのだという。

卒業後は、世界で演奏活動し、ニューヨーク大学からは助教授として誘われた。すべてに順調だったが、永住権申請中に演奏活動で国外へ出てしまい、ニューヨークに戻るためにヨーロッパで悪戦苦闘することとなる。困窮しようが、これと決めたら大胆に突き進む性分。永住権の面接に日本に帰る渡航費を節約するため、たった一度だけニューヨークで会ったフランス在住の男性の世話になったのも、その大胆さがゆえ。その人は現在の夫だ。

ニューヨークに戻って2年ほどがむしゃらに働いたころ、そろそろ私生活にも重点を置こうと、遠距離交際の末にまたも大胆な行動にでた。演奏以外のキャリアをいったん捨て、フランスに移住したのだ。1年半後には、二人で進む道を決めていた。「私はニューヨークに戻りたいから、今度はあなたがキャリアを捨てる番ね」と。

結婚してニューヨークに渡ろうとしたとき、妊娠の兆候があったのが、35歳のころだ。不幸にも胞状奇胎と診断され、化学療法で治療後はぐったり。日本でのデビューコンサートも控えていたというのに。

副作用で髪が抜け落ちるのではないかという不安もあった。そのとき母が、「もし髪がなくなったら、ピンクのカツラでもかぶってやればいい」と励ましてくれたという。病魔と闘いながらも、その苦しみは一切見せず、木村は日本でのデビューコンサートを華々しく飾った。

こんな苦境を乗り越えた経験があるからか、東日本大震災後の被災地の人々の苦境を、ただ見ていることはできなかった。一人で被災地に赴き、演奏した。

二児の母となった今も、演奏旅行と生徒への指導で、生活はバイオリンと共にある。

「今やっているのは、演奏中に最新のコンピューターグラフィック映像を流すことです」

弓を持つ手袋についているワイヤレスセンサーにより、グラフィックが演奏に連動し、川の流れのように美しくゆるやかに、はたまた火花のように激しく動くのだ。このグラフィックとのコラボレーションがこれから進む道である。自分にしかできないことを実現していくために。<取材・執筆 弘恵ベイリー>

【プロフィール】

バイオリニスト、作曲家 木村 まり

東京都出身。桐朋学園高校から同大進学、1985年卒業。同年来米、88年ボストン大学で修士号、93年ジュリアード音楽院で博士号取得。コロンビア大学でマリオ・ダビドフスキーに建築音響学と作曲を学ぶ。現在スタンフォード大学コンピューター音楽研究所客員研究員。国際現代音楽祭、国際電子音楽祭ほか20カ国以上から招待を受け演奏活動を展開する。ニューヨークデビューは94年。早稲田大学理工学総合研究センター音響情報処理研究室研究員、ジュリアード音楽院インタラクティブ・コンピューター音楽演奏の講師。作曲では2010年、グッゲンハイム財団フェローシップを受賞。

2013年6月30日(日)午後7時半より、River to River festival にて木村まりさん作、「ONE」を発表!入場無料
「インタラクティブ・オーディオ/ビジュアルのマルティ・リングア ル・オペラ」称する、日本人のアーティストとのコラボレーション・プロジェクト。

インタラクティブ・グラフィクスは電通テックのヴィジュアル・ディレクター、加藤友之氏、ヴォーカルはNYC在住の北村京子さん、カルテットは、日本人バイオリニストの大谷宗子さん率いる、カサット・カルテットで作曲は木村まり。http://www.rivertorivernyc.com/artists/mari-kimura-with-tomoyuki-kato/会場:ペース大学 Michael Schimmel Center for the Arts, 3 Spruce St  Manhattan, NY 10038【関連URL】

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中