ジェイク・シマブクロ Live at Brooklyn Bowl

太平洋の小さな島でうまれたそよ風が通り抜けたあとは、やさしさだけが残る。

ウクレレ伝道者ジェイク・シマブクロのショウがブルックリンのBrooklyn Bowlで行われた。
今回のショウはアメリカ本土ツアーの一環。太陽が降り注ぐフロリダから、豪雪に見舞われたばかりのNYにやってきたジェイクだが、

-10℃の寒さにも負けない情熱的なウクレレプレイを見せてくれた。

近年若いアーティストが集まり独自の発展を見せるウィリアムスバーグ。会場はその一角にあるボーリング場Brooklyn Bowl。

コンサートにボーリング場?首をかしげつつ向かってみると、閑散とした倉庫の集まりような場所に人だかりを発見。

そこに一歩足を踏み入れて全てが腑に落ちた。薄暗いボックスオフィスを抜けるとレストランセクションに突き当たる。

そしてすぐ隣のブルックリンビール工場からの新鮮な地ビールを提供するバーカウンター。

そのさらに奥には紫や青のネオンが光るステージとボーリングアレイが広がる。そう、ここはは600人のキャパシティーを誇る巨大ライブハウスでもあるのだ。

開演時間が近付くにつれてステージの周りには続々と人が集まり始める。興奮の波が伝わってくる。
お馴染の人懐っこい笑顔を湛えてステージに現れたのは、赤と黒のギンガムチェックのシャツに黒い帽子という都会的な服装のジェイク。
登場と同時にお得意の超高速ナンバー”143”を披露したあと、”Me & Shirley T”や”ブルーグラス調の”Orange World”が続くと、

ステージを取り囲む観客は嬉しげな歓声を送った。
ウクレレと聞いて単純にスローでメロウな音色を想像してはいけない。
「ハワイのジミヘンドリクス」の異名を持つ彼にかかれば、シンプルなウクレレの音色がアコースティックやエレキギター、はてはバンジョーの音に変化する。
ジャズやフラメンコ、ブルーグラスからロックまでさまざまな音やリズムが次々に紡ぎ出される。その根底には素朴で暖かく包み込むようなウクレレの音色がある。
ハワイ・ホノルル出身の日系5世であるジェイクはウクレレへの情熱と超絶的な演奏技術で地元ハワイでは神様的な存在だ。
日本では紅白歌合戦やフジロックフェスティバルに出場し、2006年日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞作『フラガール』の音楽を担当。
全米で人気のトーク番組『Late Night With Conan O’Brien Show』にも出演し、

2009年イギリスの伝統的なショウ『Royal Variety Performance』では同じハワイ出身のベッド・ミドラーと、エリザベス女王の前での共演も果たしている。
会場にはジェイクのドキュメンタリーを製作中というアメリカPBSチャンネルのテレビカメラが終始ジェイクのパフォーマンスを追いかけていた。

ボーリングレーン手前の椅子に並んで腰掛けた老夫婦が、身体を揺らしながら手拍子をしている。
柔らかな白い雲や緩やかにたゆたう波。その旋律に体を浸していると、積み重なったどろどろしたものが洗い流されて体が内側から軽くなっていく。
負の要素が微塵も感じられない、天国から零れ落ちたような音の一つ一つは、ウクレレとジェイクを育んだハワイという土地と彼の人柄の賜物だろう。
音楽は楽しい。そんなシンプルな喜びを味わうことがどんなに幸福かということを、ウクレレを抱くジェイクの表情が何より物語っている。
湧き上がるリズムが自然に体を揺らし、薄暗い光の中で微笑みを交し合う。

「この小さな楽器がすべての世界へのドアを開いてくれました」
ここでジェイクは、弦が4本で2オクターブという非常に限られた音域で300通りものパターンが奏でられるという楽器としてのウクレレの特徴を説明。
その後、曲はフラメンコ調のアグレッシブなスタイル”Let’s Dance”から”Pianoforte”、”Help!”、”Bring Your Adz”と続き、

レナード・コーエンの”Hallelujah”を演奏すると会場は天使が通り過ぎたような安らぎに包まれた。

さらにジェイクは大好きな曲としてジョージ・ハリソンの”My Guitar Gently Weeps”のカバーを情熱的に披露。

南国の潤いを含んだウクレレの”泣き”はどこまでも暖かい。

「こんなにたくさんの人が来てくれて、とても嬉しくて何て言い表せばいいのかわかりません。ウクレレ音楽をシェアしてくれてありがとう」
その後、これまで支えてくれた人達への感謝の気持ちを述べた。
アンコールではQueenの”Bohemian Rhapsody”を演奏。メロディーが流れると静かな歓声と歌声がそこここで起こりいつのまにか大合唱となった。
演奏が終わった後もステージ下に集まったファンたちと握手や言葉を交わしていたジェイク。
ひとつの小さな楽器が持つ可能性と魅力を、愛情と情熱でここまで増幅させることのできるプレイヤーをわたしはこれまで見たことがない。

(取材:Yoshiko Sakamoto)

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