2009 年のThe Studio at WebsterHallでのライブ以来、1年ぶりのニューヨーク公演となる ZAMZA。前日にタイムズスクエアのハードロックカフェで前夜祭を終えて、10月20日(水)、East VillegeにあるBowery Poetry Club でライブを行った。 Photo by Takahiro Masuda/Crea Creations LLC
この日のショウは、世界30カ国500バンド以上が10月19日(火)~23日(日)の6日間、 75ヵ所の会場でパフォーマンスを競い合うニューヨーク最大のアートイベントCMJ Music Marathon & Film Festivalの一環。ZAMZAはJapanese Showcaseとして、エレクトロロックの気鋭でありアメリカやヨーロッパでも確固とした人気を築いているBoom Boom Satellitesとともに出場した。
この日の参加アーティストは5バンド。ZAMZAの出演時刻が近づくにしたがって観客の数は増え始め、小さなライブハウスの入り口からは人があふれ出していく。
演奏が始まると、ステージ奥からゆっくりと登場したZINC(辻仁成)。体の奥まで響く重厚なサウンドが会場を震わせ、詰め掛けたオーディエンスを沸き立たせた。
演奏直後もファンや地元のメディアに囲まれていたZAMZAのメンバーたち。翌日、滞在先のマンハッタンのホテル近くでNY1Pageのインタビューに応じてくれた。
エコーズでは熱いメッセージをとどけ、小 説家としてもマルチな才能を発揮させているZINC。結成して今年でちょうど三年目をむかえるというZAMZA。きっかけはZINCが以前からバンドのコ ンセプトをあたためていたZINCがHIROKI(伊藤浩樹)に声をかけ、その後、もともと交流のあったBANSHEE ALIOUXCE(恩田快人)がZINCの世界観に共鳴したことがはじまりだという。
BANSHEE:「それで実際音を出し合ってみるといいのが出来上がってきたんだよね。はじめはZINCがアコギ一本でつくるんですよ。でもやっぱりそこには彼のパッションが入ってるから」
ZINC:「パンクだからね」
BANSHEE:「”叫ぶ詩人”だから」
ZINC:「そう。そうするとコウちゃんに怒られるの、もっとしゃべりなよって。見た目はこうだけどぼくはバンドで一番べらんめえなんですよ。暴れん坊大将になっちゃうんです。パンクなんでね。というかメッセージみたいなものが湧き出てくる」
BANSHEE:「歌うたってるうちに、ポエマーになるんだよね」
ZINC:「まさに叫ぶ詩人みたいに。Passion!て感じ。昨日のライブでも最後の曲とかオクターブ上でうたってて、そうすると絶叫になってメロディとかなくなってるの。『Wild Flower』って歌わなきゃいけないのに『Go!Go!』とかって歌ってんだよ」
メンバー全員:(笑)
ZINC:「日本語でも『お前たち目覚めろ!』とか歌ってるけど、実はそんな歌詞ないんですよ。するとアメリカ人たちが震えてるんですよ。わかるんだろうね。その代わりメロディーとかはどっかいっちゃう」
BANSHEE:「端で見てても、メロディがあろうがなかろうが詩の朗読みたいなってる。ヒップホップとかラップみたいな。それで演奏してると、ああそれで成立すんだこれって、みたいな(笑)」
メンバー全員:(笑)
ZINC:「そうやってると、なんかアメリカ人は啓発されるみたいなんだよね、原始的に。ぼくたちが英語の歌を聞いて感じるのと同じものを彼らも感じるんだと思う。それはロックだから、パンクだから」
今回のショウが開催されたBowery Poetry Club は、その名のとおりポエトリー・リーディングを披露する場を提供し、地元の詩人の卵をはじめ国内外の多くのパフォーマーたちに愛されている。
ポエトリー・リーディングとは1950年代にビートニク文化の詩人らによって始められた詩の朗読アート形態。公民権運動の盛んな70年代、ヒップホップがブレイクした80年代をピークに現在に至っている。
そんなBowery Poetryを選んだのも、自らもポエトリー・リーディングを行ったこともある”詩人”のZINCらしい選択といえる。
はじめはZINCの内面から吐き出される世界観、メッセージに曲を乗せていくことからはじまったという。 ZAMZAの表現スタイル。ショウでのパフォーマンスでもシャーマンのようなどこか霊的な怪しさが漂っている。
ZINC:「自分をコントロールしてやってるつもりなんだけど、ある瞬間阿修羅になっちゃう(笑)宿るというか憑依される瞬間がある」
ライブでもパフォーマンスをやってるうちはまだまだ序の口なんだよね。もっとわけのわからない瞬間がある。自分の中で何が起こってるかわからない、みたいな。最初は(メンバーも)驚いてたと思うよ、もうなれたみたいだけど」
HIROKI:「メロディないじゃんみたいな(笑)”言葉の人”だよね」
ZINC:「日本でやるライブとか、毎回即興で、日本語でがーっとなる。するとコウちゃんとかげらげら笑ってんの」
Photo by Takahiro Masuda/Crea Creations LLC
KOHTA(五十嵐公太):「だってわけわかんないんだもん(笑)」
ZINC:「中盤あたりからだんだんと、そこからこのバンドは一気にあがってくるよね」
BANSHEE:「リアルタイムで生まれ来る衝動が止められないみたいな」
ZINC:「去年のWebsterHallでは英語でMCをやったんだけど、日本語だったらもっとすごくなるよね。どんなバンドなんだろうってはじめはみんな腕組してみてるんだけど、だんだん一曲目終わったあたりから『うわーっ!』てなってくるよね」
すでにヨーロッパや韓国でもツアーを成功させているZAMZA。各地のオーディエンスの反応も土地によってまったく違うという。
KOHTA:「ドイツはすごい反応だったよね。フランスも」
ZINC: 「出ていったときにもうあおってくる空気感がヨーロッパにはあるよね。でも日本はまずZAMZAっていうものを素で見られない。エコーズとかジュディアン ドマリーのファンだったり。やっとこの一年ぐらいで昔のファンも『好きじゃない』って思う人は来なくなったし、今はこのバンドが好きでこのバンドしかない 人たちばっかりで、コアなファンが多い。逆にそのジレンマが最初の一年ぐらいはあったよね。でもぼくはライブ中ちゃんと客席を見れてないんで。一番奥の人 の、頭の拳いっこ上のあたりを見てる。というのは目を合わせてしまうとその人との一対一になっちゃうからね。その意味ではコウちゃんは一番よく見てるん じゃないかな」
KOHTA:「ドラムの位置にいると観客の反応がすごくよくわかるんだけど、音出したとたんにすごい反応が返ってくる」
ZINC:「ドラムの位置は一等地だからね」
今年5月にはニューアルバム『月族』もリリースしたばかりのZAMZA、今回ニューヨーク最大のアートイベントCMJ Music Marathon & Film Festivalという形での二度目のニューヨークでのショウを成功させたメンバーに、今後の展望をたずねてみた。
ZINC: 「アメリカっていっても広いからね。拠点はNYかな。ニューヨーク、ボストン、南はフィラデルフィアとか。東海岸でまず重要なバンドになることが最初か な。ひとつの国といっても国が違うくらい遠いからね。まずNYで活躍できる場をつくってそこから広がっていきたいなと」
BANSHEE:「ひっくりかえすとしたら、とにかく実演ライブをやってみせてひっくりかえさないと。日本から来たからってだけではだれも観に来ないし。でも観ると変わるから。とにかくやってみせて、理解してもらう」
ZINC: 「日本のバンドがアメリカで大きく成功した例ってほとんどないしね。成功したっていってもほんとの意味では成功かどうかはわからないしね。そうなると考え 方も変えていかなきゃいけなくなると思う。自分たちが楽しんでやるっていう根本は変わらないけど。もっとみんなが驚くようなことをやっていけたらなあと思 うんだよね」
BANSHEE:「音楽の普遍的なよさは押さえたいよね。アメリカのバンドと同じようにやるならアメリカ人でいいわけだから。アメリカ人が思いつかないこと、こいつらおもしろいなっていうバンドにしたい」
ZINC:「たまたま来てたアメリカのプロモーターが、こんなバンドはアメリカにないから今度一緒にやろうよって言ってくれたり」
BANSHEE:「ユニークだって。今のスタイルを変えずにやってくださいって。ZAMZAがZAMZAたる音楽っていう」
ZINC: 「可能性が見えたんだ。だいたい日本から来てがんばってやってみようと思って来た人がレコード会社を介してやったりしても、たぶんアメリカ人はそれに乗ら ないと思うんだよね。ぼくたちは今はいろんな人たちに支えられてるけど、はじめは何のお膳立てもなかったからね。PAやローディーもいないし、モニターさ え聞こえないっていうなんにもない環境だったから。でも昨日のライブでは、それが可能性なんだって腑に落ちた。ライブで一番前で踊ってた男の子に、おれら のバンド好きか?って聞いたら『おまえの音楽聴くのはこれがはじめてだからわかんないけど、いいと思うから聴いてる』って言ったんです。それになんだか今 回のライブでテーマが見えたんだよね。『なぜいま世界はそうなのか』っていう」
バンド名ZAMZAの由来はチェコの作家フランツ・カフカの代表作「変身」の主人公グレゴール・ザムザからきている。
朝目覚めると毒虫に変わっていたというグレゴール同様、 ZAMZAの中心となるのは「変身」、「説明のつかないもの」というコンセプトだというZINC。
ア メリカにもGregor Samsaというバンドがあるが、彼らがアンビエント的なシューゲイザー音楽であるのに対し、ZAMZAはハードロックである。一見Janes’s AddictionやLed Zeppelinなどを彷彿とさせるが、オルタナティブでグランジ的な要素も強く、その詩には辻独特の白昼夢のような混沌とした世界観があふれている。そ のサウンドも相まってアメリカやヨーロッパの土壌で育ったものには決して出せない作品になっている。最後にその世界観について語ってもらった。
ZINC: 「ぼくらはちょうど漫画で育った世代なんですけど、前のアルバムのタイトルでもあるMANGA ROCK。「漫画」はぼくの中で現実と非現実の中間にある ものなんですよ。一見すると海外で受けるためにやってるって思われがちなんだけどそうではなくて、現実とがまぼろしの区別がつかないもの、それをあらわし ているんです。世界が危険なわけのわからない世界に変わっていくのを、現実とも夢ともつかず見ている。ぼくらのCDのジャケットにもあるようなおどろおど ろしいような、怪しい世界。ちょうどぼくの書いた本と重なるものがあるんだけど、女の子と抱き合ってるときに眠っちゃって、その後目覚めていくときに見る 世界と言うか。みんな世界がこんなになるとは思わなかったのに、それも漫画ではすでに予測されていたり。テロとかがあって、現実にはありえないようなこと が起こっているのが現代の世界。目覚めながら見る夢、非現実的な、覚醒しつつある世界というのをあらわしているのがZAMZAの音楽です」
2007年の結成から2年足らずでワールドツアーを成功させ、その後もファーストアルバム「MANGA ROCK」で全米デビューを果たしたZAMZA。今回、二度目のアメリカ公演も成功させた彼らの次なる「変身」に期待したい。
(インタビュー:Yoshiko Sakamoto)