JAZZシンガーERIKA(松尾恵理佳)のSAUDADE

今年3月にリリースされた「Obsession」はERIKAにとってはじめてのアルバムだ。
ボサノバとジャズの融合で、新しい音楽の可能性が花開こうとしている。
花弁がわたしたちの痛みに触れ、通り過ぎた後には暖かさと軽やかな心地だけが残る。

アルバム「Obsession」をリリースした
JAZZシンガーERIKA(松尾恵理佳)のSAUDADE

(※SAUDADE…ポルトガル語で郷愁や、手に入らないものへの切なさ)

”近づきたいけど近づけない、すべて手に入らないもどかしさ”

1977年に福岡で生まれ、
幼いころからクラッシックピアノを学んでいたERIKAが体で音楽を表現することの楽しさを覚えたのは、中学生のときだった。
しかしCDなどもなく家にあった祖父のカラオケセットで歌を練習する毎日。

高校生になって一人の友人に出会った。彼女の名前は瑠衣(るい)。
お互いにピアノをやっていたこともあり意気投合した二人はバンドを結成し、活動を通してほぼ毎日彼女と過ごした。
外泊禁止など家は厳しかったが、マネキンを布団に入れてバンドのリハーサルに出かけたこともあった。

やがて同バンドで、YAMAHA Teen’s Music Festival・九州大会に出場、オリジナル曲で優勝を飾る。
レコード会社からのオファーやレコーディングなどを経験し、卒業後は音楽の専門学校進学をのぞんでいた。

ところが、大学進学が可能であるにもかかわらずあえて不安定な道を進もうとする娘を理解することができない両親と衝突した。

最終的に短大に進むことで和解したERIKA。だが、再びジャズやドラムンベース、
ファンクといった今まで聴いたこともなかった音楽に出会い、夢中になる。

卒業後に専門学校に進学するため両親を説得していたまさにその時、
ニューヨークからツアーに来ていたピアニスト平戸祐介(現在Quasimode)と出会った。
ニュースクール大学に在籍しニューヨークの香りをそのまま持ち帰った平戸の話はERIKAを刺激、彼のバンドへの誘いもあり、

ニューヨーク行きを決意する。

東京の専門学校への1年分の学費と生活費の納入期限が1週間後に迫っていた矢先、
あまりに急な変更に両親は激怒したが、ERIKAの真剣で熱心な態度に結局は折れることになった。

ニューヨークに飛んだERIKAは平戸とレコーディングなどに参加していたが、ビザの関係もあり3ヶ月で帰国。
意気込んでニューヨークに行ったものの何も結果を残すことができなかったことで周りから厳しい目が向けられる。

その後、以前バンドを組んでいたブルーノートに勤める高校時代の親友・瑠衣のアパートに転がり込み、六畳一間の共同生活を始めることになった。
ニューヨークに戻りたいと思いつつも、お金を稼ぐだけの音楽とは無縁の生活に突入した。
しかしそんな矢先、いつものように飲み屋で働いていたERIKAの携帯に母から電話が入る。

「瑠衣ちゃんが交通事故にあった」

急いで家に帰ったが、親友がERIKAの呼びかけに答えることは二度となかった。
高校時代は、一年のうちの350日を瑠衣と共に過ごした。そして大変だったが、充実していた瑠衣との共同生活。

彼女からは、音楽をはじめ全てに影響をうけて成長してきたのだ。

生まれてはじめての、逃れられない「死」という現実への直面。

それが、いちばん仲のよかった親友の死という形でおとずれ、めぐり合わせにERIKAは動けなくなってしまう。

仕事もやめ、放心状態となった自分を気遣うまわりの励ましも、ERIKAには苦痛でしかなかった。

半年間実家にも戻らず、瑠衣と暮らしたアパートも引き払った。なぜ才能のない自分だけが生きているのか。

どこをさがしても答えはなく、喪失感と深い悲しみの日々が続いた。

思い出ばかりが甦る福岡を離れ、ひたすら働いて3年。その資金をもとにニューヨークへ渡った。

“魂を込めることができたなら、英語も日本語も関係なく必ず人の心に届く”

ロン・カーターが自ら演奏して合否を決めるニューヨーク市立大学のジャズプロフェッショナル科に合格。
師事したシーラ・ジョーダンからは彼女の生き方そのものを通じて音楽に対する姿勢を学んだ。

ニューヨーク全大学のジャズフェスティバルにて、レイサントス率いるラテンビッグバンドのボーカルを務めたり

講義が終わったあとは、レパートリーが少ないにも関わらず、夜な夜なジャムセッションに通ったりと経験をつんでいった。

ところが、地元でひらいたはじめてのライブは緊張のあまり、まともなものにならなかった。
神戸で開かれたジャスコンテストに出場するものの敗退。悔しさに沈んで自信を失い、何日も口がきけなかった。
その後、初めて行ったツアーで新たに出会った人やお客さんに励まされ、自信を保つことができた。

渡米から5年後、いつも味方になってくれていた祖母が亡くなった。ライブで各地を回るERIKAを見てプロの歌手になったと喜んでいた祖母。
葬儀に出席するために帰国すると、会う人会う人に「現実をみろ」「いつまで夢を追い続けているのか」と言われた。
まわりが安定した仕事についていく中で、思うような結果も出せないままニューヨークでひとり暮らしを続けている自分。
だれにも理解されず、自信もなく、行き止まってばかりの日々が続いた。

そんな中、翌年、ニューヨークでCD「I close my eyes」をリリースした。
地道にレッスンやライブを続けるERIKAを周囲の人は、呆れながらも、少しずつ理解してくれるようになってきた。
そしてチャンスがおとずれる。

コマーシャルを歌うシンガーを日本で探しているとの連絡があり挑戦、数ある応募者の中から選ばれ、

6ヶ月間「爽健美茶」のCMソングに起用されることになったのだ。

さらに、いつもは買わない雑誌で見つけた浅草ジャズコンテスト。

偶然にもそのときニューヨークで持ち合わせていた3千円と同額の参加費をみて応募したところ、予選を通過した。
しかし日本行きを前にして、神戸で味わったどうしようもない悔しさや、敗北感をもう一度味わうかもしれないという恐怖が襲う。
ここで辞退してしまえばもう二度とチャンスは来ない。

劣等感を克服するため毎日のようにトレーニングをした。

稼いだお金がそのままレッスン代に消えていくぎりぎりの生活。一曲だけのために渡航費を使って受賞できなければ、もう後はない。

日本へ戻ってからは緊張と不安で夜も眠れず、リハーサルになっても絶望感から抜け出せないでいた。

応援に来てくれた友人の「いつものERIKAでいい」との言葉に心が軽くなった。

歌はペインティングと同じ。ラインのひとつひとつを明確に感情を込めて歌えばかならず伝わる。大切なものは音楽そのもの。

その歌声に歓声があがった。審査員は絶賛し、ERIKAはグランプリを獲得する。

“目を閉じれば、あなたの笑顔、太陽が生命をくれるよう”

2009年、ERIKAは上野JAZZ INNに出演。関東、九州を16ケ所の凱旋ライブを行った。
現在もニューヨークのジャズクラブなどで音楽活動に従事すると同時に、毎週日曜日にはハーレムの教会でクワイヤーもつとめている。

今回行われるツアーは今年3月にリリースされたアルバム「Obsession」を記念してのもの。
会場は東京、大阪、四国、九州、全国18ケ所以上。参加ミュージシャンは、

ロニー・ジョーダンや日野皓正などの作品に参加するカールトン・ホールムズ(p)をはじめ、豪華なプレイヤーが顔をそろえる。

カールトンはフレキシブルな音楽性をもつ。色々な方法で表現したいものを出してきてくれるとERIKAは語る。
異国での生活は日本語のよさを教えてくれるが、日本語だけでは表現しきれない部分もある。
そんな中でもっとも自分を表現できるのがジャズとラテンだ。
ジャズには日々の大切な感情をストレートに表現することができる英語があり、
ラテンには、自身の音楽のテーマでもある届かない想いや手に入らないものへの切なさを伝える豊かな表現がある。

あふれる切なさのなかにはまっすぐで熱い想いが背筋を伸ばし、歌声がリズムにのるごとにゆったりと落ちつきを増す。
程よい低音を含んだボイスは何時間聞いても疲れることがない。

やめたくなることもあります。でも歌わないと不安になる。

単に話すこととは違う。生きていること、Lifeを実感することができるのが音楽。
今は無き親友が与えてくれた音楽を通したさまざまなかけがえのない出会いが、いまのERIKAをかたち作っている。
そうした出会いはこれからもずっと続いていくだろう。

歌うときの彼女は、まるで自然に生きる場所を見つけたかのようだ。

音楽がそばにいる限り、わたしたちは一人じゃない

(インタビュー:Yoshiko Sakamoto)

【関連URL】

WEBSITE
http://www.erikajazz.com/

CDBABYのサイトも
http://www.cdbaby.com/cd/erikamusic

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