安野モヨコの漫画の世界がNYで現実に!『MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN』をついに観てきた

以前、NY1Pageでアソシエイトプロデューサーの安藤優さんに取材したミュージカル『MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN』のプレビュー公演を、ついに観てきた。

安野モヨコさんの漫画『鼻下長紳士回顧録』を原作に、ニューヨークで英語のミュージカルを制作するというプロジェクト。アソシエイトプロデューサーの安藤優さんにお話をうかがった際には、何年もの歳月をかけて準備を進めてきた舞台の裏側を聞き、期待が大きく膨らんでいた。

そして、実際に観てみると……。

安野モヨコさんが描く漫画の世界が、まるで現実へと飛び出してきたようだった!

音楽に酔いしれ、気がつけば自分も娼館の中にいるような錯覚に。原作ファンも楽しめる、オフブロードウェイの濃密な舞台体験。

漫画の世界に入り込んでしまったような劇場

舞台は20世紀初頭のパリ。主人公コレットが働くのは、SMクラブを思わせる娼館「ナイト・エッグ」だ。

この作品のために新たに作られた専用劇場「The Night Egg」は、かつてイマーシブシアター『Sleep No More』が上演されていた建物にある。

取材の際、安藤さんから「出演者がお客さんの横から現れるような演出もある」と聞いていたが、実際に体験すると、これがなかなか面白い。

演者が客席の間をすり抜けて舞台に上がったり、舞台から降りてきたりする。完全なイマーシブシアターではないものの、観客と演者の距離がとにかく近い。

その距離感が、作品の妖しく官能的な世界観と実によく合っているのだ。

美しい音楽にうっとりと聴き入りながら、お酒も入っていたからか、自分もこの娼館にいるのではないかって気分。

漫画を読んでいるときには想像の中にしかなかった世界が、目の前に広がっている。そんな贅沢な体験だった。

主人公コレットは、まさに漫画から抜け出したよう!

原作拝読後に、うれしかったのは、主人公コレットを演じるソフィア・アン・カルーソの存在だ。

漫画の主人公のイメージにぴったりのルックス。そして、スレンダーでセクシーな肢体。

安野モヨコさんが描く、繊細でどこか危うさを感じさせる女性像を、そのまま現実の世界へ連れてきたかのようだった。

取材時、安藤さんは、ソフィアが数年前のリーディングの段階からコレット役を演じ続けてきたと話していた。

なるほど。長い時間をかけて役と向き合ってきたことも、彼女の舞台での存在感につながっているのかもしれない。

一方、コレットが恋をする、ヒモでもある男性を演じる俳優については、ちょっとだけ気になったことが。

「あれ? 漫画よりも、ずいぶんガタイがよくない?」

原作のイメージよりも、思った以上にがっしりとした体格だったのだ。

とはいえ、いい男であることは原作と同じ。

そこは、まあ、許してしまおう(笑)。

ダンカン・シークの音楽が、とにかく素晴らしい!

そして、今回の舞台で何より心を奪われたのが音楽だった。

取材の際、安藤さんは、ダンカン・シークが手がける音楽について、一般的なミュージカル音楽とは少し違い、オルタナティブ・ロックやテクノ的な要素も取り入れられていると話していた。

実際に聴いてみると、メロディーがとてつもなく素晴らしい。

ただ耳に心地よいだけではなく、登場人物たちの感情に寄り添い、物語の世界へと引き込んでくれる。

そして、やはり生の舞台は違う。役者たちが、今、この場所で歌っている。その歌声が、直接こちらの心に響いてくるのだ。

映像や音源では味わえない、舞台ならではの魅力を改めて感じた。

客席の反応も印象的だった。

笑える場面では、あちらこちらからクスクスと笑い声が聞こえてくる。

ところが、胸に迫る場面になると、今度は客席がこれでもかというほど静まり返る。

観客が物語に引き込まれ、舞台上の人物たちと一緒に笑ったり、悲しんだりしているのが伝わってくる。

この一体感こそ、生の演劇を観る醍醐味なのだろう。

ニューヨーカーには意外と親しみやすい題材?

それにしても、SMクラブのような娼館を舞台にした物語というのも、なかなか大胆だ。妖艶なダンスも、見事で、パンチのきいている体格のよい役者さんたちが、踊るからかエロさとカッコよさが交錯する。

ニューヨークにはSMをテーマにしたクラブやカルチャーもあるし、こうした官能的で少し刺激的な世界観は、ニューヨーカーにとって意外と入りやすい題材なのかもしれない。

って思ったのは、私だけだろうか?

もちろん、この作品の魅力は、刺激的な設定だけではない。

そこで生きる人々の欲望や恋愛、切なさ、そして自分の人生をどう生きるのかという問いが描かれている。

100年以上前のパリを舞台にしていながら、登場人物たちの感情には、今を生きる私たちにも通じるものがある。

4年前の話が、ついに目の前の舞台になった

安藤さんを初めて取材した頃には、まだ完成した舞台はなかった。

それが何年もの時間をかけ、脚本や音楽を作り、キャストを集め、ついには専用の劇場まで作ってしまった。

そして今回、実際にその空間で作品を観ることができた。

以前の取材で安藤さんは、このオフブロードウェイ公演を最終的なゴールとは考えていないと話していた。その先に目指しているのは、ブロードウェイへの進出だという。

漫画のページの中にあった世界が、ニューヨークで生身の役者たちによって演じられ、歌われている。

その瞬間に立ち会えたことが、何よりもうれしい。

原作漫画を知っている人には、ぜひこの世界がどのように舞台化されたのかを体験してほしい。原作を知らない人にも、音楽と演劇が生み出す独特の世界を楽しんでもらいたい。

そして、この作品がここからどこへ向かうのか。

これからも楽しみに見守っていきたい。

なお、この舞台の音楽を手がけたダンカン・シークさんは、残念ながらプレビュー公演が始まる直前の2026年9月17日、56歳で亡くなった。THEATER MANIAの記事リンク『MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN』は、彼が生前最後に手がけたミュージカル作品の一つとなった。あの素晴らしいメロディーを思い返すと、彼が完成した舞台を観ることができなかったのが残念でならない。

<取材・記事 弘恵ベイリー>


公演情報

『MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN』

  • 原作:安野モヨコ『鼻下長紳士回顧録』
  • 主演:ソフィア・アン・カルーソ
  • 演出・振付:ロブ・アシュフォード
  • 作詞・作曲:ダンカン・シーク
  • 脚本:リア・ナナコ・ウィンクラー
  • 会場:The Night Egg at the Culture Club
  • 住所:530 W. 27th Street, New York
  • プレビュー開始:2026年9月25日
  • 正式開幕:2026年10月15日
  • 上演予定:2027年1月3日まで

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