捨てられる服に、もう一度「魂」をCIVIATELIERがつくる世界にひとつの服
「英語を喋れるようになったら、もっといろんな人と出会えるじゃないですか」
CIVIATELIER(シヴィアトリエ)を手がけるデザイナー、田中恵介さんに海外へ目を向けた理由を尋ねると、意外にも返ってきたのはそんなシンプルな答えだった。
「こっちで一旗あげてやる、みたいな大きな目標は全然なかったです。」
世界で活躍するデザイナーになろうと、最初から壮大な計画を立てていたわけではないというのだ。CIVIATELIERは、拠点を日本に置いたまま、まずは英語を学ぶためにニューヨークへやってきた。
「英語を話せたら、世界各国にいる今まで会えなかった人たちにも会えるし、対話できる。」田中さんは続けた。そして世界という単位で都市を考えた時、頭に浮かんだのがニューヨークだったという。
とはいえ、ニューヨークに知り合いがいたわけではない。
「ゼロですよね」
現地での人脈について尋ねると、田中さんは即答した。英語も十分に話せず、これといった大きな目標があったわけでもない。渡米当初は「何しに来たの?」と周囲から冷たくあしらわれることもあったという。
そんなニューヨークの印象を変えたのが、渡米から3カ月ほど経った頃に出会ったアメリカ人の友人たちだった。
「年齢とかにもこだわらず、すげえ優しいんですよね。家族として扱ってくれるみたいな。それが自分の中で衝撃的で」
何かあれば助け、守ってくれる。田中さんは彼らとの関係を「ニューヨークにいる間、その人たちに育ててもらった感じがある」と表現する。
ニューヨークというと、どこか冷たい大都会というイメージを持つ人もいる。しかし田中さんにとっては違った。
「俺からしたら、ニューヨークの人たちって、めっちゃみんなあったかいと思うんですけど」
知らない人同士でも、街中で気に入った服を見れば「その服かっこいいね」と声をかける。自分がいいと思ったものを素直に「いい」と言う。そうした人との距離感や文化も、田中さんがニューヨークを好きになった理由のひとつ。
渡米前から、田中さんが立ち上げたブランド、CIVIATELIERは日本をベースにしながら、国境を越えた実績を重ねているブランドだ。
その服は、いわゆる大量生産のファッションとは少し違う。
古着のスポーツジャージ、着なくなったTシャツ、誰かにとって思い出の詰まった服——。そうした既存の衣服を一度解体し、新たな一着へと生まれ変わらせる。
田中さんが大切にしているのは、「何を作るか」だけではない。
誰のために作るのか。
そこからデザインが始まる。
「その人の思い」が入っていなければ意味がない
一点物を依頼された時、田中さんは相手の好きなものや趣味、色、サイズ感などを細かく聞く。有名人であったり、アーティストであっても、ウェブサイトや動画など、表に出ている情報からだけではなく、その人に直接、向き合うのだという。
「せっかく作ったのに、『俺これ嫌いなんだよね』ってなるのが一番嫌じゃないですか」
もちろん表舞台へ上がるための衣装であれば、相手について下調べとして、過去の映像を見ることもある。デザイナー自身が作りたいものを一方的に形にするのではない。
「相手を知らないまま、独りよがりに作ったものであれば、それは俺が作りたいものであって、そのアーティストとかカスタマーの思いってないじゃないですか。だから愛着が湧かないかもしれない。」
以前、日本のアーティストのために制作した際にも、その人物が何を好きなのか、どんな思い出を持っているのかを聞いてから制作した。完成した服はメディアに出たわけではない。それでも本人が何度も着ていることを、周囲の人から聞いたという。
「有名人に着てもらったからといって、必ずしもSNSに投稿してほしいわけでもないんです。本人がプライベートで気に入って着てくれているなら、それでもいい。」
その言葉を聞いていると、CIVIATELIERにとって服とは『田中さんのアート作品 』である前に、着る人があってこそ、生まれる作品なのだと感じる。
GOT7からDOBERMAN INFINITYまで
もっとも、CIVIATELIERの服はこれまで数多くの人の目に触れてきた。
日本では、LDH所属アーティストをはじめ、E-girls、DOBERMAN INFINITY、吉本興業所属の芸人など、さまざまな著名人がCIVIATELIERの服を着用してきた。テレビ出演時の衣装だけでなく、プライベートで愛用する人もいるという。
中でも大きな実績の一つが、韓国の人気グループGOT7の日本2ndミニアルバム『Turn Up』だ。
CIVIATELIERのカスタムフーディーがキャンペーンを象徴する衣装の一つとなり、関連するYouTubeコンテンツは1,160万回再生、EPは5万5,500枚を売り上げ、日本武道館公演もソールドアウト。さらに『INROCK BOY7』では28ページにわたって取り上げられた。
DOBERMAN INFINITYとの関係は一度きりではない。複数年にわたる関係の中で、300万回以上再生された「Do Party」のミュージックビデオをはじめ、『411 Magazine』の表紙や『Woofin Magazine』の誌面にもCIVIATELIERのクリエーションが登場している。
こうした実績は、広告戦略だけで作られたものではない。
田中さんの話を聞いていると、人から人へと服が渡り、その服を見た別の人から「自分にも作ってほしい」と声がかかる——そんな連鎖がCIVIATELIERを育ててきたことがわかる。
客席で見つけた一着が、NBAの舞台へ
その象徴ともいえるのが、米国人ラッパーKid Inkとの仕事だ。
きっかけは日本でのツアーだった。
Kid Inkと一緒に出演していた人物が、田中さんの制作した服を着ていた。それを見たKid Ink側から興味を持たれ、やがて田中さんのもとに制作の話が届く。
そして、その服は思いがけない場所へ行く。NBAプレーオフのハーフタイムショー。Kid Inkが米国で全国放送されたハーフタイムパフォーマンスのステージウェアとしてCIVIATELIERの作品を着用したのだ。
田中さん自身は「たまたま着てくれた」と笑う。
だが、作品を気に入った一人から次の一人へとつながっていく。この偶然の積み重ねこそ、CIVIATELIERの歩みを象徴しているようにも思える。
「テトリス好きなんですか?」から始まった出会い
もう一つ、田中さんらしい出会いがある。
ニューヨーク滞在中、アートイベントでHenk Rogers(ヘンク・ロジャース)氏と出会った。田中さんが受け取った名刺にテトリスのデザインがあったので、
「テトリス好きなんですか?」と尋ねると、返ってきたのは想像もしない答えだった。
「僕の会社だよ」
そこから縁が生まれ、2025年のTetris / Red Bull World Finalでは、Rogers氏のために「Tetris Shirt」を制作した。世界60カ国から約700万人が予選に参加したグローバルイベントで着用され、その姿はSportskeedaやTheGamerなど海外メディアでも取り上げられた。
Henk Rogers氏との出会いも、誰かに紹介してもらったわけではなく、制作している現場で偶然生まれたものだった。
捨てることは、「思い出」まで捨てること
CIVIATELIERを語る上で、もう一つ外せないのがリメイクだ。
ファッション業界では大量生産と大量廃棄が世界的な課題になっている。
しかし田中さんのリメイクは、「サステナブルだから」という言葉から始まったものではない。もっと個人的で、人間的だ。
「思い入れがあって着てるじゃないですか。でも着なくなっちゃう。小さくなったりして、押し入れに入れておいて。でも、いらないから捨てるっていうのはもったいない。思い出も捨てちゃうようなものだから」
だったら、今の時代に着られる形に作り直せばいい。その発想だ。
古着屋で探した服だけでなく、友人から「もう着ないから使っていいよ」と渡された服を素材にすることもある。
ブランドや元の価格にこだわるわけではない。一度切ってしまえば、それは「ブランド物」ではなく、ひとつの生地になる。そこから別の価値を作る。子供服は、販売用として制作していないというが、そこにも同じ考え方が生きている。
「赤ちゃんの頃に着ていた服や、思い出のあるタオルケット、枕カバーなどをつなぎ合わせ、新しいものとして、その子の親に渡すこともあるのですが、めっちゃ喜ばれます。」
子どもはすぐ成長する。それでも、そこに残された思い出まで小さくなるわけではない。
取材中、私は思わず「自分や家族にとって大切な思い入れのある洋服や素材であるというだけでなく、そこから生み出される田中さんという作り手の魂が入っているからなんでしょうね。」と口にした。
田中さんは少し照れながらも、「それもあると思います」と答えた。
新品か古着か、高価か安価かではない。誰かが着ていた服に残る記憶と、そこに作り手である田中さんが、新たに魂を加えた作品となるのだ。CIVIATELIERの一点物の価値は、そこにあるのかもしれない。
「日本のアーティストが憧れる人」に着てもらいたい
これからどんなブランドにしたいのか。
田中さんに聞くと、量産だけを目指しているわけではないという。もちろん商品を量産し、多くの人に届ける仕事もしていくかもしれない。だが今、より強く惹かれているのは一点物だ。
「日本のアーティストが憧れる、世界で活躍しているアーティストっているわけじゃないですか、そういう人に着てもらいたいです。」
日本で活動していた頃は、日本の有名アーティストが自分の服を着てくれること自体が大きな目標だった。しかし海外でさまざまな人や文化に触れ、その視線はさらにその先である、世界に名をはせるアーティストへ向くようになった。
そしてもう一つ、昔から抱いている夢がある。リメイクに使うブランド側から正式に声をかけてもらい、公式に素材を託されることだ。
「あなたにデザインしてほしい、作ってほしい、っていうのが目標です」
単に既存のものを切って縫い直すのではない。ブランドからも認められた上で、新しい価値を作り出す。日本をベースに培ってきた技術と感性を持ちながら、世界のアーティストやブランドと仕事をするCIVIATELIERが目指す次のステージが、少しずつ見えてくる。
「やめようと思ったことなんか、何回もあるんですよ」
田中さんはそう話した。もういいかな、と思う。すると、不思議なタイミングでまた仕事が来る。
Kid Inkをはじめ、周囲のアーティストたちからも「絶対にやめるな」「続けた方がいい」と言われてきた。
「何かしらで引っ張られるんですよね」
それを運と呼ぶこともできる。しかし、誰かのために一着ずつ魂をこめて作り続けてきたからこそ、その「運」が次の人との縁につながったのではないだろうか。大量に作られ、大量に消費されていく服の世界で、CIVIATELIERは逆方向を向いている。
一度役目を終えた服を切り、ほどき、縫い合わせる。そこに、その服を着る人の物語を重ねる。そして、世界に二つとない一着にする。捨てられるはずだった服に、もう一度「魂」を注ぎこむのだ。
その一着が、次に誰と出会い、どんな物語を紡いでいくのか。CIVIATELIERの物語は、世界に向けてこれから始まる。
<取材・執筆:ベイリー弘恵>

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