世界を旅するはずが、ニューヨークに根を下ろした―ツアーガイド千子さんの物語<第一回>
世界を旅してみたい――。
そんな夢を胸に、日本で旅の資金を貯めていた千子さん。最初の目的地として選んだのは、友人から「世界を見るなら、まずはニューヨークへ行ってみるといい」と勧められた街、ニューヨークだった。
当初は、しばらく滞在してから次の国へ向かうつもりだった。しかし、一歩足を踏み入れたニューヨークは、不思議なくらい居心地がよかった。「もう少しここにいたい」。そう思ったものの、異国で暮らすには仕事が必要だった。
その当時は、学生ビザでも仕事は直ぐに見つかった。
そこで応募したのが、ある有名旅行会社のツアーガイドだった。
ところが、面接会場には予想をはるかに超える50名程の応募者が集まった。面接では、一人づつ面接官から言われた地区の説明をお客様がいるという設定でガイドをするというものだった。
「あなたは、ハーレムをガイドして」と言われて、ジャズやゴスペル、黒人有名ミュージシャンの憧れのAPPOLOシアターがある、そして危険な地区。そんな知識しかなかったので上手く説明することができなかった。合否の連絡をしますとも何とも言われず解散。
そして、面接後なかなか連絡が来なかった。
「やっぱり落ちたのかな」と思い、自ら会社へ電話をかけてみた。
すると、思いがけない返事が返ってきた。
「一応、明日来てみて」
「はい、もちろんです!」即答した。
この一歩が、人生を大きく変えることになる。
3週間のトレーニングを終えて、ツアーガイドとしての仕事が始まり、引退する日までニューヨークの魅力を多くの旅行者へ伝え続けた。そして職場では、生涯の伴侶とも出会う。世界一周旅行の途中で立ち寄るはずだったニューヨークは、いつしか「住む場所」となり、千子さんはこの街に人生を築くことになった。
2児の子育ても終え、子供たちはそれぞれ独立していった。既にツアーガイドを引退し、ご主人とともに自然豊かな土地で穏やかな日々を送っている。
趣味の裁縫では、独自デザインの柄を端切れ布でコラージュパッチワークを製作し、身に付ける人が幸せを感じる作品を作っている。畑ではオーガニック野菜やハーブを育てる毎日。
土に触れ、季節を感じ、小さな宇宙がここで繰り広げられていると思いながら過ごす暮らしは、世界を旅したいと夢見ていた頃とはまた違う豊かさに満ちている。
「人生って、本当に何がきっかけで変わるか分からない。」
そう笑う千子さんの人生は、一歩踏み出す勇気と、人とのご縁によって紡がれてきた物語そのものだった。
<取材・執筆 ベイリー弘恵>

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