
渡辺千秋(Chiaki Watanabe)
テレビ番組制作
東京生まれ東京在住
テレビの取材でバイオリニストに出会う
バイオリン演奏で医療従事者に感謝を伝えるプロジェクト「和と話と輪」を結成
クラウドファンディングに挑戦中
しゃけ:
動画を拝見させていただきました。
演奏の場を求めて!奮闘するバイオリニスト 2020年8月5日放送『news every.』より – YouTube
コロナ禍で暗いニュースが多い中、明るい話題でとても素晴らしいなと思いました。「ジプシーバイオリン」という言葉を初めて聞いたのですが、古館由佳子さんについて詳しく教えていただけますか?

千秋さん:
ジプシー音楽というと範囲が広くなってしまうのですが、古館由佳子さんが演奏しているのは、リストやブラームスにも影響を与えた「ハンガリーのジプシー音楽」です。彼女はもともとはクラシックで育っていまして、音大(桐朋学園)卒業後、オーケストラで客員演奏などしていましたが、ある時、ジプシー音楽に出会うと、その情熱的で自由な演奏に衝撃を受けて、ハンガリーまで飛んで行って、著名なバイオリニストに師事。ジプシー音楽の世界にのめりこんでいったそうです。
2006年、ハンガリーで開催された国際ジプシーバイオリンコンクールに出場すると、それまでこのコンクールで本場のロマ民族以外が賞を獲ったことはなかったのに、アジア人女性として初めて獲った凄い人なんです。ハンガリーでは、相当な話題になって、テレビで彼女の特別番組が組まれました。さらに、つい最近(2021年11月)も、ロシア芸術協会開催の国際アートコンペティションに参加して、「プリマーシュ(ジプシーバンドのリーダー)」として金メダルを獲得しています。
私が彼女に出会ったのは、ちょうどコロナが蔓延しはじめて、東京に最初の緊急事態宣言が出るかどうかの頃。
既に多くの音楽家たちに影響が出ていて、古館さんも海外公演がキャンセルになっていました。ギリギリ、30年続けてきた東京・銀座の音楽レストランで演奏を許されていたタイミングでしたね。そこで私は彼女の生演奏を聴いて、激しくも切ない音に魅了され、すぐさまテレビ番組での取材を申し込みました。
みんな「音楽の力」を知っているハズなのに、世の中から、「不要不急」みたいな言われ方をして…このままだと、音楽家としての生き方を手放さなくてはならない人たちが続出するという心配と、「こんな時こそ音楽が必要なんじゃない?」っていうことを思い出して欲しいなと考えていたので、コロナ禍の音楽家の代表として彼女の様子を追いかけさせてもらいました。
ところが取材を始めると間もなく、銀座の音楽レストランも休業になってしまい、演奏での収入は本当にゼロになってしまいました。電話オペレーターのアルバイトで凌ぎながら、演奏の場を求めて音楽配信に初挑戦するなどして悪戦苦闘していましたが、やはりお客さんの反応を直に感じられる「生演奏」が一番なんですよね。同じ頃、フランス人の仲間がパリの自宅マンションのベランダからギターの弾き語りを披露して向かいの住民から拍手を貰っている動画を見て、彼女は、自身の生活もままならない中、自分も今、ボランティアで誰かに生演奏を届けたいと言い始めたのです。そうした所、コロナの患者さんを受け入れている感染症指定医療機関の病院が彼女の演奏を受け入れてくれる事なったんです。
病院の建物内には一切入らず、正面玄関前の庭で演奏したのですが、病院では医療従事者のモチベーションを保つことが課題になっていたので、すごく喜んでいただけて、演奏した古館さんも久しぶりに生演奏を聞いてもらえて嬉しそうにしている姿を目の当たりにしました。だったら、1回で終わらせないでもう少し継続できないかなぁと思いついたのが、今回の「コロナ禍、医療従事者に生演奏を届ける」というプロジェクトです。古館さんの他に、クラシックバイオリンの佐藤美代子さん、ポップバイオリンの式町水晶さんに声がけして、計3人のバイオリニストと、知人の音楽関係者らにも加わってもらってチームを結成しました。3人のユニット名をそれぞれの名前の頭文字から「美由水(ミューズ)」と名付けました。都内の病院を訪問し、その病院の庭やバルコニーなどで演奏しています。この活動資金を調達したいためクラウドファンディングで支援を呼びかけているのです。今年の12月24日までですが、ご支援いただけたら嬉しいです。
そして、その先は都内を飛び出してもっと多くの病院を回って、コロナ禍、命の現場で大変な仕事をしてくださった医療従事者の皆さんに音楽の力で感謝の気持ちを伝えたいと思っています。
しゃけ:
佐藤美代子(さとうみよこ)さん、式町水晶(しきまちみずき)さんは千秋さんの呼びかけで集まったということですか?
家族と財産失い“どん底”の40年…70代バイオリニストが“復活”へ(2021年4月19日放送「news every.」より) – YouTube

千秋さん:
2人とも別々のタイミングで、別々の企画で取材した2人ですが、このプロジェクトを持ちかけたときに皆さん良い企画だからやりたいと言ってくれました。
バイオリンならコロナ禍でも飛沫を飛ばさないし、電源やマイクなしで割と音が届く楽器なので病院側にも迷惑をかけずにできると思いバイオリニストたちに声をかけました。

しゃけ:
バイオリンの音色は医療従事者の皆様を元気づけるだけでなく、病気の治療にも良い効果があるのではないかと思います。感動的なお話を聞かせていただいてありがとうございました。
コロナ禍でテレビのお仕事には何か影響はありましたか?
千秋さん:
はい。それはありました。予定していた飲食店の取材や、一般のご家庭を訪問する取材などが制限されましたね。ただ、色々制限はある中でも、コロナ禍で頑張る人たちの姿を取材することはできました。古館由佳子さんの取材もその時の企画です。
そしてコロナ禍だからこそ、映像の仕事が大切になる時代が来たと思っています。人と会う事や移動が制限されて直接見聞きする事がしずらくなった分、人々が映像に求めるものは幅広くなっていると思います。でもそれはテレビに限りません。
今はインターネットを通じて、誰もが発信できる時代。今回の私たちのクラウドファンディングでも、実際に病院を訪問し、医療従事者のみなさんに生演奏を届けている様子を映像で見て頂けるようにしています。それは、「ちゃんとやっているんだな」という事を知って納得してもらえたら、きっと支援していただけるんじゃないかな?と、考えたからです。ご支援くださった方への返礼品も、3人のバイオリニストのメッセージや演奏を映像にしてインターネットを通じて届けるというものです。
私自身、テレビ以外のツールで映像を発信したのは初めてでしたが、面識のなかった方から素早くダイレクトに感想をいただけるなど、新鮮な体験をしています。インターネットと映像で、今や世界のどこにいても人は繋がれるし、世界のどこにいても誰かの応援ができる時代なのだなとつくづく思いました。
しゃけ:
そうですね。リモート生活が長くなりネット環境が整ったり、発信に力を入れる人も増えていると思います。
これからどのような番組を作っていきたいとお考えですか?
千秋さん:
コロナを経験して、世の中の価値観が大きくかわっていく時だと思いますので、生きるヒントになるような事、人、モノ、を伝えられるような番組を作りたいです。そのためのアンテナは感度をよくしておきたいと思っています。
