新井 伸久 Instagram
東京都出身 ドイツ在住
バーデン州立劇場管弦楽団 オーボエ奏者
5歳 ピアノを始める
13歳 オーボエを始める
高校時代 ドイツ・ハノーファー国立音大教授インゴ・ゴリツキ氏のレッスンを受ける
東京藝術大学附属高校から東京藝術大学に入学
ドイツへ 留学インゴ・ゴリツキ氏のクラスを受ける
2003年から2006年マンハイム国立音大オーボエ科非常勤講師
ケルン放送交響楽団、北ドイツ放送交響楽団ハンブルク、ベルリン・ドイツ交響楽団、バンベルク交響楽団、ドイツオペラ・ベルリン、等に客演
ドルトムント市立劇場
ベルギッシュ交響楽団
ブラウンシュヴァイク州立劇場管弦楽団を経て
現在 バーデン州立劇場管弦楽団のオーボエ奏者
しゃけ:
ドイツのオーケストラのオーボエ奏者、新井さんにお話を聞かせていただけるとのこと、嬉しいです。私、クラッシック音楽何も知らないですが、よろしくお願いします!
新井さん:
しゃけさん、はじめまして。僕の話がお役に立つかわかりませんが、興味を持っていただいて嬉しいです。よろしくお願いします。
しゃけ:
ドイツはもう長いのですか?オーボエ歴というか、どのようにしてドイツのオーケストラに入団されたのか聞かせていただきたいです。「才能です」と言われたら終わりなんですけど(笑)
新井さん:
あはは。ドイツに初めて来たのは1987年なので38年でしょうか。オーボエ歴は45年です。
僕自身は音楽家一家に生まれたわけではないです。母が保育士で家に足踏みオルガンがありまして、それで遊んでいたというのが音楽との出会いです。ピアノを5歳からやっていましたが、剣道や水泳も習っていました。勉強も運動も楽器も「やりなさい」と言われたことはありません。ピアノも厳しく教わるとか練習がいやだとか、そういう記憶もありません。ただただ楽しいな、と続けたのがピアノでした。
しゃけ:
おお!では、いやなことはしたことがない人生かしら?
新井さん:
いやなこと・・・しないですね(笑)なるべく自分の好きなことだけやって生きていきたいじゃないですか。
しゃけ:
うんうん。やりたくないことは続かないし。できないですよね?
新井さん:
まったく後悔のない人生か?と聞かれればそんなことはないのですが、自分がやってきたことで後悔していることは、まあ、ないかもしれないです。それから、自分に特別な才能があったとは思っていません。
なるべく好きなことだけをしていたいと行動していたら、自然にドイツに住んでいました。
しゃけ:
クラッシック音楽の本場はドイツなのですか?
新井さん:
そうですね。質と量、どちらもやはり圧倒的にドイツは素晴らしいと思います。世界トップクラスの方々の音を近くで聞けるというのは最高の贅沢であり、幸せを感じます。
ドイツ人とロシア人に囲まれてヨーロッパツアーをしたときは本当に衝撃でした。チェリストのロストロポーヴィッチ巨匠とずっと一緒に行動し、演奏をしました。そのころロストロポーヴィッチさんは70代だったと思いますが、とってもパワフルでしたね。誰よりも早く来てリハーサルから全力でした。飲み会なども最後まで元気に参加されていましたね。スタミナが違うのかな。
今の僕の歳だと、4,5時間かかるワーグナーなんかは長いなー、と思ってしまうことがあるのですけど。2時間くらいがちょうどいいです。
しゃけ:
オペラをYoutubeで見ました。大人の娯楽で能や歌舞伎に近いのかな?と思ったのですが。
新井さん:
そうですね。どちらかというと歌舞伎に近いかな。ドイツ語、イタリア語、フランス語の語学力があったとしても、オペラを聞き取りストーリーを理解するのは難しいです。今は字幕付きになったし翻訳機もあるからわかりやすくなりましたが、インターネットもない時代にはライブ会場に字幕がつくということはなかったので、CDについている歌詞を日本語で読んで理解していきました。大学で「オペラ博士」と呼ばれていた先輩に解説してもらったり、漫画で読んだりしたのを覚えています。その時代、学生は10マルクほどでオペラ鑑賞ができたので、ほとんど毎晩オペラ座に通っていました。
しゃけ:
え、毎晩本場のオペラ座に?それはドイツならではですね。
新井さん:
オペラがとても好きだから通っていたのではなくて(笑)好きな音楽、好きな楽器、オーボエを続けるためにはオペラが必要だったんです。
学生時代が終わるとオーディションを受けまくる人生が始まるのですが、オーボエ奏者の募集はオペラ座が圧倒的に多いので、オペラを知らないとオーディションを受けることすらできません。
しゃけ:
オーケストラのオーディションがどのようなものかまったく想像できないので、教えていただけますでしょうか?
新井さん:
はい。僕は100回以上オーディションを受けているのでご説明しますよ!
オーケストラで演奏者の応募が出るということは、席が一つ空いたということです。その一つの空席を狙って応募が70通から120通ほど集まります。その中から、オーディションへの招待状が届くのは25名から30名になります。
第一次オーディションはほとんど音だけで審査されます。そこで明らかにほかの誰よりもすごい方がいれば、空席は埋まり、オーディションは終了となります。
審査員というのはオーケストラの団員なので、多数決で合格者が決まります。(現在所属してるオーケストラの全体の人数は99名 指揮者は2票投じることができる)
票数が分かれた場合は第二次、第三次、第四次審査・・・となることもありますが、空席のままでオーディションが終了することもあります。
楽器によりますが、基本的には35歳くらいまでの方に招待状が届きます。オーケストラの定年は63歳から67歳です。
しゃけ:
わ!とても厳しい世界なのですね。でも入団できれば定年まで働くことができるということでしょうか?
新井さん:
そうですね。相当なことがない限り、クビにされるということはありません。入団すればその日から今度は審査する側になります。楽器や年齢による上下関係はなく、受かった時から同じ「楽団員」です。
音楽の才能が十分にあればオーケストラに入団できるというわけではない気がします。ソリストとして一人で完結できる方も別の道があるでしょう。オーボエでも世界で一人だけ、そういう方がいらっしゃいます。オーケストラにはソリストにはできない演奏、ハーモニーを期待されていて、一瞬一瞬が勝負です。団体で行動するので人間性も重視されますね。
楽団にどんな音艶(ねいろ)を期待されているのかをかぎ分ける力が必要だと思います。これは言葉にするのがとても難しいのですが、要約して言うと、ドイツのオーケストラにはドイツ楽器の音艶しか合格しません。僕がアメリカの楽団のオーボエ奏者になれるか?と聞かれたら、たぶんなれないと思います。そもそも使っている楽器が違うし、リードの震わせ方も違います。
しゃけ:
え!地域によって求められる音が違うのですか?
新井さん:
ドイツとオーストリアは同じですが、それ以外は違いますね。オーケストラが音を合わせるときに「ラ」の音を最初に出すのがオーボエの役なのですが、その一発目の「ラ」が、楽団の期待している「ラ」でないとダメということになります。
しゃけ:
ほほう。楽団員が納得する「ラ」を出せるかどうかなんですね?「音色」を「音艶」(ねいろ)と書いていますが、これは新井さんがこの漢字だというので、そう書いています。
新井さん:
オーボエの音を漢字一文字で表現すると「艶」(いろ)ではないかと思います。音を言葉で伝えるのは難しいですね(笑)ワインで例えるなら、貴腐ワインの甘さと酸味の絶妙なバランスの中、味の中心に引き立った酸味がオーボエでしょうか。貴腐ワインというのはドイツではTBA(トロッケンベーレンアウスレーゼ)と呼ばれる最高品質の甘口ワインです。フルーティーで爽やかな酸味と蜂蜜のような甘さが特徴ですね。
しゃけ:
オーボエの音を漢字で表すと「艶」は、なんとなく伝わりますが、貴腐ワインは飲んだことがないので想像しますね。う~ん・・・ごくり・・・。!!ということは、オーボエはオーケストラの要(かなめ)であるということですか?!
新井さん:
さすが、しゃけさん(笑)楽器のメンテナンスをしてくださる方に「良いオーケストラかどうかはオーボエを聞けばわかる」と言われたことがあります。一見地味に見えるオーボエがオーケストラの中で非常に重要な役割を果たしているとは思います。
しゃけ:
なんと!ということは・・・新井さんは・・・
新井さん:
いえいえ、あの、誤解されないように。才能豊かな音楽家たちの十分の一くらいの仕事はできるかも、とは思いますが・・・。本当に素晴らしい方々に囲まれて仕事ができるというのは、大変光栄なことです。
しゃけ:
うーーん、ちょっと納得いかないな、これはロングインタビューになりそうです。が、今日はここまでということで。続きは「クロスロード知識で遊ぶ」でよろしくお願いします!
新井さん:
え?あ、はい。よろしくお願いします。



