撮影は厳禁で、入場時に携帯の カメラにシール が貼られるほど徹底されている。これは、目の前で繰り広げられる世界観に完全に没入してほしいという配慮なのかもしれない。
このショーは、ただのエンタメではなく、歴史や社会の闇を描く芸術作品 だった。私がただ華やかなキャバレーショーを期待していただけに、そのギャップがより一層強烈に心に響いたのかもしれない。
アダム・ランバートっていうシンガー、アメリカンアイドルでデビューした後の一曲に惚れてしまった私は、何度も繰り返し彼の音楽を聴いた。
ミーハーなため、キットカットクラブで彼がMCをつとめるパフォーマンスがあるっていうから、キャバレーショーに急遽、友人と二人で行くことにした。
ステージは中央に円形で、クルクル回る仕組みになっている。ステージから2列目のテーブル席を確保。パフォーマーが私たちの横をすり抜けて舞台に上ったり、アダムの顔のしわまで見える近い席なのに、チケット1枚220ドル程度だったので、安い!ワインはボトルで100ドルくらい。劇場では、これが妥当なお値段。
ワインを飲みながら、キャバレーのショーを楽しもうと、チビリチビリとホワイトワインを飲む。アコーディオンやバイオリンにチェロのパフォーマンスから始まり、舞台の上でかなりきわどいエッチなダンス。もちろんアダムの素晴らしい歌声とアナウンスに聞きほれていた。
きっとこんな感じで、最後までキャバレーの派手なショーなのだろうって思いこんでいた。なぜなら、何も下調べしてなかったから。。。
この曲は15年も前なんだね。。。
パフォーマーは人種や体形も様々で、クリスマスでラインダンスをするラジオシティ・ミュージックホールの統一されたパフォーマーとは真逆。それがまた人間臭くっていい!
アメリカからドイツベルリンへ渡った小説家が、キャバレーショーのダンサーと恋に落ちる内容なんだけど、かなりお年な家主さん(ドイツ人女性)と住人であるジューイッシュ男性との恋もほのぼのとしていていい。客席には同じ年齢くらいのカップルがほとんどだったので、彼らの心にもぐっときているはず。
アダムちゃんの歌だけじゃなく、ほかのパフォーマー全員が歌もダンスも素晴らしいし、アダムちゃんがITのピエロみたいな衣装で出てきたり、悪魔のような姿で現れたり、死を描く瞬間に真っ白な紙吹雪が落ちてきたり、暗転舞台の演出も素晴らしい。ナチスが占拠しはじめるときからの死や破滅に向かっていくドイツがあの小さな舞台の上で描かれているのも心に響いた。
暗転のタイミングが絶妙だったからだろう。舞台がクルクルと回転し、華やかなキャバレーショーのシーンでは、中央のステージだけが浮き上がったりするのだけど、悲しいシーンでは、暗転が一瞬の静寂を生み出す。その一瞬の闇が、次のシーンの緊張感や期待感を引き立てる。
特に、ナチスが占拠し始めるシーンでの静寂は、会場が凍り付くようだった。アメリカから主人公が渡ったばかりの時に知り合ったドイツ人の友人だったはずの男がつけているナチスの腕章によって、それまでの華やかでエロティックなショーが、一転して不穏な空気に包まれる。
また、主人公が恋に破れ、悲しみに打ちひしがれるシーン。その涙が落ちる瞬間に暗転。光が消えた後に残るのは、観客の心に刻まれた彼女の悲しみだけ。ショーを観ているというより、物語の中に引き込まれたような感覚に陥る。
キットカットクラブの暗転は、単なるシーン転換ではなく、観ている者たちの感情の波を操る マジック のようだった。これこそが、本物の舞台演出だと思う。
現在アメリカが独裁者ともいえる彼らから、どんどん変革されている中、このパフォーマンスは、そうした独裁政治を行うことの怖さ、市民は巻き込まれていくばかりなのだという平和から混沌へのすさまじい動きを目の当たりにし、現実に起こっている恐怖をさらに恐ろしく感じた。
だからこそ、このステージを、赤いステートの人たちにも見てほしいって思った。
恋に破れる主人公のカワイイ女性の歌声からあふれ出す悲しみを描くパワーが凄すぎて、涙が止まらなかった。エンディングはネタバレになるので、言わないでおくが、これまで観たパフォーマンスのエンディングとはまったく違っていた。
こんなにレベルの高いパフォーマーたちが演じる、最高の音楽と舞台を見れることに感謝。NYに住んでいて本当によかったって思った。
キットカットクラブは、ニューヨークの中心地に位置している。チケットは公式サイトから購入可能で、今回の席は 1 枚 220 ドル程度だったが、もっと安い席もあるので、予算に応じて選べるのがうれしい。
贅沢な夜を楽しめる空間であることを約束する。
入り口前のこれしか撮影できなかった。。。会場は開演の1時間前からオープンしているので、早めに入るべし。開演前からミュージシャンたちがステージでパフォーマンスしているので、そちらも必見。
