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第十九号 01/07/2000
Harlem日記
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*****飛行機*****
2000年だーあけましておめでとうございます。今年も飛躍の年ということで「とびまっすとびまっす!」飛行機の話題ではじめましょう。
出張に帰省に私は飛行機をたまに利用する。
飛行機の中では様々な人間模様が展開されるので、結構気に入っている。日本へ帰る際は日本の航空会社を利用するのだが、今年は帰省する際にTVゲームやらビデオやらが一般席にも完備されていたので驚いた。
早速テトリス、テトリス…などと楽しんでたが、ふと、隣のいかにも新婚旅行中の日本人夫婦を見るとカチカチとリモコンをけたたましく押したりひねったりしているのが目にとまった。
しびれを切らした奥さんがスチュワーデスを呼んだ。
「あのーちょっとー」
「はい、どうしましたか?」
ショートカットで色白の小泉今日子さんみたいなスチュワーデスが立ち止まって満面の笑みを浮かべる。
だけどちょっとおかしいぞ、日本語になにやらアクセントが。
そして奥さんは説明を始めた。「このリモコンを押してもテレビが映らないんですけど。」
小泉さんは群れからはずれた小猿のようにきょとんとした後にオロオロし始めた。
日本語が通じていなかったのだった。チャイニーズかコリアンか?小泉さんとは英語ならかろうじてコミュニケートできるようだった。
だが、夫婦は英語がしゃべれない。
はたから見ていた私も、最初はそしらぬ顔で、岡田真澄さんのようにダンディーに気取っていたのだが、説明が通じない彼らのやりとりを見ているとイライラし始めた。
「このモニターのスイッチが壊れてるから、リモコンのせいじゃないし、どうしようもないのでは?」とマイケル冨岡さんっぽくキャビンアテンダントさんに問い掛けた。彼女はチャカチャカとリモコンをいじった後、モニターを修理できるのか、奥へ聞きに入っていった。
「申し訳ありませんが、お客様に席を移動してもらうしか方法がありません。」英語で答えていた。
「だったらしょうがない。」
奥さんが諦めた様子で日本語でつぶやくと、小泉さんは再び小猿に戻ってしまった。
「彼らはこの席を移動したくないから、モニターはいいってさー。」とマイケル富岡さんっぽく通訳したのであった。
日本の航空会社もチャイニーズやコリアンのお客様が増えているので、日本人以外の労働力が必要なのか?もしくは、安い日本人以外の労働力を利用しようとしているのか?どちらにしても日本人以外の労働者が介入するというのは、私個人としては嬉しい。
ちょっと前に経済学者が、「すでに経済大国としてのトップの座を失ってしまった日本が、経済大国の一員として生き残るためには、最先端テクノロジー開発を市場戦略の武器として維持する必要があって、そのためには東南アジアの優秀な学生を奨学生として受け入れ雇用していくべきだ。」という意見があった。
この言葉に、(大学時代、国際経済学の冨安ゼミにいた)私は深い感銘を受けた。
まさに恩師の言葉そのままだったからである。
日本も孤立した国では存在しえない。多民族の都市NYのように姿を変えるべく、経済体制の変革がはじまっているのは当然といえよう。
女子高生もだぼだぼのソックスをはいて日焼けしてる暇はない。弁当屋でバイトすることもできないくらいに雇用機会を失う可能性もある。
おっと、お気楽なハーレム日記には難しい言葉が並んでしまった。2000年最初のメルマガともなると知性を光らせてみたくなるが、「あんたはいつになっても鳩の脳みそしかないみたいだよねー。」というベストフレンドの声がこだまする。
この間、出張から帰る際の飛行機は予定の時間から、2時間も遅れることになった。私はラッキーにもファーストクラスだったので、コメディアンみたいなブラックのキャビンアテンダントの兄ちゃんが酒をタダでサーブしてくれるワインのグラスを見つめ
「バーにタダ酒を飲んでると思っていれば、2時間なんてたいしたことないぜ。」
とニンマリと笑っていた。
機長からのアナウンス「NYのラガーディアで悪天候のためトラフィックとなっているので7時25分に空きがあれば、着陸できるのですが、今しばらくNYからの連絡をお待ちください。」
Oh-とかAh-とかいう落胆の声、そして皆が一同に携帯で話し始めた。
「遅れるんだー別のやつを予定に入れてくれないか?どうやら今日は接待できそうにない。」などと隣のやり手セールスマン風おやじは早口だった。
「私のママが飛行場で待ってるのーどうすればいいのーBabyはお腹すかしてるしーどうしたらいいのー。」小さな赤ん坊を抱えた白人女性が前方でパニックっている。
スチュワーデス達が「食べ物は外に出て買ってきたらいいから、落ち着いてください。」となだめていた。
だが彼女はとうとう、泣き出してしまった。
泣きじゃくりながら訴えを続けていた。
「君達、飛行機が墜落した訳じゃないんだからー」
こんなに簡単に冷静さを失うなんてアメリカ人って弱いのねーと、私は、右手に抱えたグラスのワインをがぶりと飲んだ。
しばらくしてプラスチックの容器に入ったサンドイッチを手にして、彼女は戻ってきた。ちょっとは落ち着いた様子だった。
しばらくすると別の女性が、「一般の席に飲み物はでないの?」と聞いてきた。
「一時間以上遅れたら一杯はタダでサービスします。」とスチュワートが言った。
「ファーストクラスの酒は残しておいてくれよ。」と冗談まじりに隣のやり手セールスマンが私の方を見た。
ファーストクラスの料金を払って飲んでるわけでなかった私は、小さくなりながらも「そうだそうだー」とおやじに賛同の笑みを返した。
飛行機はようやく飛び立った。
ラガーディアに着陸直前に激しく揺れた。
思わず遺書をメモに残してしまった私であった。
